上手い画家は、生前成功しても死後忘れ去られることが多い。それとは逆に、どう見ても上手いとは言えない画家が、コツコツやっているうちに時代の流れと合致して大物になることがある。「ドゥワニエ(税関吏)・ルソー」こと、アンリ・ルソー (1844-1910)はまさにその一人だ。正規の美術教育を受けなかったとはいえ、遠近法も解剖学も無視、あるいは知っていてもそれに沿って描ける技術がなかった。その彼が、新しい美術を模索していたピカソやカンディンスキーのような当時の前衛から称賛され、彼らにインスピレーションを与え、美術史上に残る大物になっていったさまを辿るのが、この展覧会だ。
ルソーは素朴派ともよばれるが、作風はともかく、素朴どころか、たいへんな野心家だった。描き始めてすぐにルーヴルに模写の許可を申請し、1年後に権威ある官展(ル・サロン)に応募。落ちたので、その後は無審査で展示できるアンデパンダン展に毎年出展した。畏れ多くもあのピカソを同等と見なし、「我々は当代の二大画家だね」と言っていたのだから、自分は偉大だと思っていたようなフシがある。そんな 「天然」の画家、ルソーとその影響を受けた後代の画家の作品を比較して見るのも面白い。(羽)
7月17日まで。月休。
Musée d’Orsay:1 rue de la Légion d’Honneur 7e
9h30-18h、木曜-21h45。