油彩200点を集めた大がかりなモネ展が始まった。モネに対して持っていた印象がブレない、安心して見られる展覧会である。それだけに、あまり大きな期待を抱いていくと、ハッと驚くような部分がなくて、これだけか、と思うかもしれない。
けれども、行っただけの収穫はある。まず、アメリカ、オーストラリア、ハンガリーなどから、滅多に見られない作品が集まっていること。そのおかげで、同じ場所を、違う時間帯や違う季節に描いた作品数点を見比べることができる幸運に恵まれたことだ。展覧会は必ずしも年代別になっているわけではなく、年代別展示とテーマ別展示が混じっていて、十数年後の作品が隣り合わせになっていたりする。
若いころの作品にも、後年顕著になる、光と風と時と水へのモネの「目」が現れている。ジヴェルニーに定住する1890年以前の作品を集めた会場前半にある、1867-68年に描かれた『Glaçons sur la Seine à Bougival ブジヴァルのセーヌ川の氷』。冬のセーヌ川がたたえる光は空の光よりも透明だ。
1874年の同じ題名の二作『Le Pont du Chemin de fer, Argenteuil アルジャントゥイユの鉄橋』は、同じ場所を描いたものなのに、同じ人の、時を経た状態のように違う。一作は朝の洗顔と化粧を終えた女性のように晴れ晴れとしており、もう一作は、一日の疲れを負っているが、床につくほどの疲れではない夕方の女性のようだ。
地中海を描いた作品群は、ターコイズ色の熱を帯びた光で、モネにこんな明るさがあったかと驚かされる。それもそのはず、作品はすべて英米の美術館や個人蔵から来ており、パリでは見られないものばかりだ。アメリカやスイスから集められた、憂いを帯びたベニス風景も珍しい。
「霧の効果を描くため」にロンドンに行って描いた1900年前後の作品は、陶酔を誘う。ここでは大気が主役であり、触媒である。陽の光が霧の中を通ってテームズ川と国会議事堂を照らしている。
最後の『睡蓮』の部屋は拍子抜け。オランジュリーの睡蓮にはかなわない。優れた『睡蓮』をここで見ようと期待しないほうがいい。(羽)
1月24日迄。 無休(10h-22h、火14h迄、木 20h迄)。
グランパレ : 3 av. du Général Eisenhower 8e
写真:Le Parlement, effet de soleil 1903 © Brooklyn Museum of Art, USA