1942年、英米連合軍の北アフリカ上陸後、ナチス軍への反撃のため仏解放軍に参加した旧仏領植民地の徴用兵と志願兵は34万人にのぼる。戦死者約6万人はフランスの軍人墓地で眠っている。第1次世界大戦のヴェルダンの戦いにも旧仏植民地から93万人が出兵し、7万人が戦死している。
第2次世界大戦の旧仏植民地出身兵の生存者約8万人(半数はアルジェリア人とモロッコ人)は現在、マグレブ・アフリカの23カ国で暮らしている。戦後、彼らには仏旧軍人と同等の恩給や年金、傷痍軍人手当が支給されるはずだった。1959年、ドゴール政権は彼らへの恩給・年金をこの年の支給額に凍結することを決定した。以来、仏旧軍人と彼らへの支給額の格差が広がりつづけ、現在フランスの退役軍人の年金が年平均7千ユーロに対し、マグレブ・アフリカ諸国出身の旧仏兵士への支給額はその10~30%にすぎない。さらに1981年、ミッテラン政権は修正予算法により、1962年に独立したアルジェリアの旧仏兵士への支給額の修正・改正をそれ以降は不可能と制定した。
2006年カンヌ映画祭で主演俳優5人が男優賞に輝いた、プシャレール監督の『Indigènes デイズ・オブ・グローリー』(OVNI 597号)を観たシラク前大統領夫妻は、旧植民地アルジェリア出身兵たちがくり広げた壮絶な激戦に感動した。それがきっかけとなり、同国の旧徴用・志願兵約5千人の恩給と年金が部分的に引き上げられた。
5月28日、憲法評議会による「合憲性を優先的に審議する」法廷が、旧仏兵士と旧植民地出身兵との差別を撤廃するべきだとし、50年間凍結されてきた彼らの恩給・年金法を2011年1月に廃止することを政府に勧告した。この問題に約3万人が該当し、提訴された06年までさかのぼり仏軍人年金・恩給額との差額が弁済されるのだが、両者への支給額は同額にはならず、居住国の生活水準と物価指数が考慮に入れられるようだ。しかし戦後、フランス国家に欺かれたと感じている旧植民地出身兵と彼らの遺族の積怨(せきえん)がこの判決でどれほど解消されるだろうか…。
「合憲性を優先的に審議する」法廷は08年7月に制定され、今年3月に施行。個人が法律や条例の合憲性を問い、憲法評議会または破棄院に審議を要求できる新しい制度だ。6月には、02年法〈反ペルッシュ法〉の合憲性を審議中。同法は、医師の誤診により心身障害児を産んだ母親への損害賠償に関するものだが、親たちは障害児への補償を国家に要求し、同法の合憲性の審議を願い出た。
なかでも旧軍人恩給・年金の差別撤廃問題は、少なくとも旧宗主国フランスの〈自由・平等・博愛〉を信じてフランス解放軍に加わったアンディジェーヌ(旧植民地原住民)への国家の象徴的謝罪のしるしとして捉えるにはあまりにも根が深い。数百万人の彼らの2世、3世が60年代以降、移民として差別を受けながら道路建設や産業に力を注いできたことを、フランスの現代史から消すことはできないからである。(君)
写真:映画『Indigènes』より。