「フランス_ロシア2010年」の一環として9世紀から18世紀までのロシア正教の美術品400点を展示した、大掛かりな展覧会である。ロシアから一度も外に出たことがない作品がほとんどだ。
広い会場を行けども行けどもイコンが続く。あまりの中身の濃さに、出るときは頭の中はイコンで一杯。カカオ70%のチョコレートを一日中食べ続けさせられたような、飽和感と充実感が残る。
会場は、ロシア史を語りながら、その時代の作品を見せる構成になっている。
北ウクライナにあった国「ルーシ」のキエフ大公ウラジーミル1世が東ローマ帝国の国教だった正教の洗礼を受けた988年に、正教がルーシの国教となった。13世紀になると、モンゴル帝国の攻撃に遭ってルーシは衰退。14世紀には、モザイク状に公国が乱立する。その中で、ルーシの北西にあったノヴゴルド共和国が勢力を持つようになる。
その後、モスクワ大公国が台頭し、16世紀にはそこから出たイヴァン3世のもとでロシアの統合が始まる。後を継いだイヴァン4世は、東ローマ帝国の継承者として正式にツァーリの称号を用いた。
16世紀後半、15年の内乱のあと、ロマノフ朝が成立。ロシアの西欧化が始まったピョートル大帝の時代で、展覧会は終わっている。
歴史的背景がわからないと興味が半減する作品があるため、時間がかかってもパネルの説明を読みながら回っていくことをすすめたい。
西欧の宗教美術にはない構図を発見していくのも面白い。幼子と母が頬をすり寄せ合っている聖母子像には、なごやかな愛らしさがある。聖母マリアの昇天の際、イエスが母の魂を迎えに来る場面では、イエスの胸の位置にマリアの魂が描かれており、意表を突かれる。色彩の鮮やかさも目を引く。竜の口に槍を付き刺す聖ゲオルギウスのイコンは、白と赤のコントラストが美しい。
一番印象に残ったのは、「精神の梯子Echelle spirituelle」という15世紀の小品だ。僧たちが天に伸びる梯子を登っていく。2人が落ち、1人は悪魔に喰われている。上ではキリストが手を差し伸ばしている。修道院での修行の厳しさを物語るものだというが、いともわかりやすく描かれていた内容は現代でも通用するものだ。(羽)
ルーヴル美術館:5月24日迄。火休。
“Saint Georges terrassant le dragon”, Novgorod, XVe siècle.
Saint-Pétersbourg, Musée national russe
© Musée Russe, Saint-Pétersbourg