高校のころ、美術部の教師に引率されて、都会までアンソール(1860-1949)展を見に行った。がい骨や仮面をかぶった人物が殺人やノゾキや意味不明の行為をする絵は、田舎の高校生に強烈な印象を残した。ニューヨーク近代美術館MOMA主催のアンソール展が、オルセーで開かれている。昔好きだった画家は今見るとどうなのか。そのことも気になって行ってみた。
アンソールのイメージとは違う、初期の自然主義的な作風にはびっくりさせられるが、作品は決して悪くない。ところが、キリストや聖人が主題のスピリチュアル風の作品からおかしくなってくる。キッチュで、胸を打つものが何もない。ターナーばりの海と空の絵にも、ターナーのような深みは感じられない。
キリストを主人公にした作品は、当時の美術界から評価されなかった。アンソールはメチャメチャに傷つく。そしてキリストは「世間から理解されなかった自分」となって、再び作品に現れる。非常に繊細で傷つきやすく、他人の無理解や批判に耐えられない人だったという。その反面、自分をキリストにたとえたり、「光の形と、光が線に与える変容について、自分以前にわかった人はいなかった」というような傲慢さも持ち合わせていた。
詩人エミール・ヴェルハーレンによれば、アンソールは「世界で一番好きなのは自分の芸術で、従ってそれを作った自分も好き」だったという。(羽)は、アンソールは自己愛性パーソナリティ障害であったと95%断言できる。非難に弱く、批判された自分を犠牲者としてとらえ、否定された自分を高めるために、さらに自分を特別な存在と考え、栄光を求める。自己愛的パーソナリティ障害の特徴そのものだ。
トレードマークとなった仮面は、自分を理解しない世間の人たちであると同時に、アンソール自身の分身でもあった。仮面に囲まれた自画像には、アンソール・ワールドに安心して浸っている画家の心情が表れている。仮面がオハコとなったとき、アンソールは「やった!これで行ける」と思ったのではないか。大家となった晩年は、仮面の繰り返しで目も当てられなかったというが、展覧会は、ほぼ1900年の作品で終わっている。(羽)
オルセー美術館で2月4日迄(月休)。木21h45迄。
Ensor aux masques,1899 Huile sur toile, 120 x 80 cm
Komaki, Japon, Menard Art Museum
© Menard Art Museum, Japon © ADAGP, Paris 2009