●Post mortem
これまで知らなかった写真家を発見するのに便利な写真文庫シリーズ〈Photo poche〉の中の一冊で、1850年ごろから現在まで死者を撮った写真が集められている。西欧では、古くから死者の面影をデッサンやデスマスクなどでとどめようとしていたが、19世紀半ば以来、死者の像をそのままとどめるかのような写真がとって代わるようになった。この一冊にも、死の床につくユゴー、プルースト、アイゼンシュタイン、毛沢東といった人たちの写真が載っている。そして写真になってふつうの人にも手が出るようになったのか、無名の死者の写真が続く。
20世紀初頭までは、水痘、しょうこう熱、百日ぜきなどにかかって、生きはじめたというところで亡くなった乳幼児の写真も多い。よそ行きの服を着たまま、あるいは人形に見守れながら、眠るように横たわっている。
左の写真は、メキシコで1905年に撮られたものだ。亡くなった乳児は、生きているかのように眼を開けられている。そして兄も母も、お祭りに出かけていくような晴れ着姿だが、二人の視線はどこまでもうつろで、暗く悲しい。写真が、どれだけ死という現実を装うとしても、母はそれが「虚」でしかないことを知っているからだろう。(真)
Actes Sud社発行。12.8€。