3月15日号2ページで(真)さんが紹介した『Bienvenue chez les Ch’tis シュティの国へようこそ』は、その後もヒット街道を大ばく進、公開3週間で1260万人を動員、今やフランス国の市民としては観ないわけにはいかない勢いだ。鳴り物入りの超大作(例えば『Asterix…』)でもなく、大スターが出ているわけでもない中規模の作品。金に糸目を付けない宣伝を打ったわけでもない。この映画の何がフランス人の心をつかんだのか?
プロヴァンス地方で郵便局長を務めるフィリップ(カッド・メラ)は、妻のご機嫌取りにコートダジュールへの転勤を申請するが嘘の下工作がバレ、転勤先はベルギーとの国境、ノール・パ・ド・カレ地方のベルグという小さな町。さあ大変だ。寒くて暗くて炭坑跡のボタ山に囲まれた貧しく寂しい地方というイメージで固められた場所で、最低2年は過ごさなくてはならない。妻を気遣い単身赴任を決めたフィリップは、悲壮な思いで南国を後にする。日本で言えば、九州四国あたりに住む人が東北へ転勤になった感じ?
この地方の訛は、SとCHのシの発音に区別がない(ズーズー弁?)。最初は言葉も思うように通じず悲嘆にくれるフィリップだが、次第にここの人々の暖かさ優しさ寛容さに打たれて積極的に彼らに溶け込もうとするようになる。週末に南に帰ると妻やかつての同僚が哀れみの気持ちで彼を迎える。ついに妻が夫の窮地を救おうと一家で北へ引っ越すことを決める…。
監督ダニー・ブーン(ベルグの町の郵便局員アントワーヌ役で出演)は、自分の出身地への愛を「偏見はよくないです」というメッセージと共に贈る。ウェルメイドの人情喜劇だが、ここまでヒットの理由の核心は突き止められなかった。(吉)