カルチエ・ブレッソン財団で、2003年のカルチエ・ブレッソン賞を獲得したラリー・タウェルの写真展が開かれている。 ラリー・タウェルの描く〈No man’s land〉とは、パレスチナのことである。ラリー・タウェルは53年生まれのカナダ人。農場に住みながら音楽や詩、文章も書くボヘミアン的写真家だが、捉える映像はシャープで詩的である。彼が興味を持つのは社会的弱者、ニカラグアの離散し反抗する農民、グアテマラの失踪者、ベトナム戦争の元兵士たちの軌跡といったものである。タウェル自身、旅行をしながら写真を撮るのは嫌いだ。ある土地に固執している人間のありように興味を抱く。彼は言う。「アイデンティティーは土地から私たちに与えられるのだ。パレスチナ人は、農民であり羊飼いだ。彼らの土地の欠乏を埋め合わせることができなければ、彼らは存在することも、個人的に和解することも、ましてや集団的に合意することもできない」と。 ラリー・タウェルのパレスチナ行きは今回が初めてではない。1994年には、パレスチナの子供が空に向かって銃を構える写真で、世界報道写真大賞を受賞している。 今回の仕事は10年がかりの仕事である。たしかにタウェルの写真は、向こう側から撮っている写真ではない。パレスチナ人の中に分け入り、石を投げる子供や青年たちの呼吸が聞こえるほどの距離感で、写真を撮っているのである。機関銃や戦車やミサイルで攻めてくるイスラエル軍に、素手で石を握り、あるいはロープで簡単な石投げ器を作り、それで抵抗する。その抵抗(インティファーダ)の、それしかない抵抗の悲しさをタウェルは見事に映し出す。センセーショナリズムに陥ることなく、また悲惨を売り物にすることもなく、その現実を冷徹につかみ取る。 これらの撮影作業はきわめて困難かつ危険で、相当な苦労を味わったことだろう。「この地方で仕事するのはきわめて困難だ。というのも嫌悪がそこら中に渦巻いているからだ。嫌悪はまったく醜い。しかし妥協のない二つの国家がきっとできると信じる」というタウェルは、西岸、ガザ地区、東エルサレム、ジェニンや難民キャンプ、また分離壁の建設まで追いかけた。抑圧され続けている民族の生の声をつかみ取るためだ。 今回展示されている仕事の大半は、暴力が荒れ狂った第二次インティファーダの最中に撮られた。石を投げるのに使う道具まで展示されている。 子供たちの凶暴な精神をどうしたら平和な心に変えることができるのか。紛争の地に、休み時間の楽しい笑い声はない。(Kolin) |
Fondation Henri Cartier-Bresson : 2 impasse Lebouis 14e 8月4日まで(月火休)。 |
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Galerie Anne Julien オーナーのベルジェール姉妹は、父親の仕事関係で青春時代にジャン・コクトーと交流のあったことを縁に、コクトーのデッサン、リトグラフや油画のコレクションを中心に扱うこのギャラリーを18年前から始めた。姉のアンヌ・マリーさんが懐かしそうに語る当時の話に耳を傾けると、小さなギャラリーにひしめく作品らは生き生きと蘇るようだ。コクトーの他にはマリー・ローランサンやヴィクトル・ユゴーの曾孫ジャン・ユゴーの作品もいくつか扱う。姉妹は思春期にローランサンの肖像画のモデルになったこともあるように、この画廊で扱う作品は全てオーナー姉妹が実際に交流のあったアーチストのものばかりだ。エコール・ド・パリ、良き時代の息吹が今でも密かに感じられる画廊である。(久) |
14 rue de Seine 6e 01.4325.6566 |
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●James Casebere (1953-) 30年にわたり建築の社会的、精神的、歴史的意味を問い続けるアメリカ人写真家。アラブ・ヨーロッパ文化が混合する空想の建築物の模型を撮影したという曖昧な空間。グローバリゼーションで文化を均質化しつつあるアメリカへの警鐘。7/23迄。 Galerie Daniel Templon : 30 rue Beaubourg 3e ●Africa Remix ●Vive l’Afrique ●Daumier, Les Celebrites du Juste Milieu ●J’en reve |
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