200点以上の展示品の約半数がカイロのエジプト美術館から貸し出された、フランスでは滅多に見られない展覧会だ。 会場入口には、18歳で亡くなったツタンカーメンの巨大な彫像が設置されている。涼やかな笑みをたたえた少年王には、観音菩薩像のような優美さと中性的な美しさがある。歴代のファラオたちの彫像が、それぞれに個性的で見ごたえがある。アメンヘテプ3世は、小さな鼻に官能的な唇で、こちらも女性のよう。 ファラオとは、いったいどんな存在だったのかは、意外に知られていない。それを鑑賞者に明らかにするのが、この展覧会の目的だ。ファラオは神界と地上を結ぶ仲介者で、神ではないが、神と同等の存在と見なされていた。神から地上をつかさどる権利をただ一人与えられた、超人的な神的パワーの持ち主である。神と人間の中継ぎ役、統治者、敵からエジプトを守る将軍、多くの妻と子どもを持つ王家の家長という、ファラオの多様な側面が、コーナー別にまとめられ、展示品でわかるように工夫されている。 即位式のときに、神性がファラオの中に入りこみ、それによって、本来人間であるファラオに神的な要素が加わることになる。エジプトの王である神話の神ホルスが、ファラオを王座に導く図がある。古代エジプトで、ファラオは「ホルス神の化身」と見なされていた。 会場を詳細に見ていくうちに、エジプトが日本史と日本神話に重なってくる。ファラオの王女が巫女になる点は、7世紀から南北朝の時代まで、未婚の皇女が伊勢神宮の巫女になったことに似ている。「ホルス神の化身」としてのファラオからは、天皇が約60年前まで現人神(あらひとがみ)と言われていたことが思い出される。1945年8月15日の「人間宣言」でその像は破られたが、皇室の即位式で実際になにが行われるかは、ベールに包まれたままだ。 創造神アトムが、王権の象徴である杖をファラオに渡して地上権の正統性を証明する図を見ると、古代エジプトのほうがまだわかりやすい、と複雑な思いに駆られる。(羽)
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ツタンカーメンの彫像
Institut du monde arabe : 1 rue des Fosses-St-Bernard 5e |
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Les Yeux Fertiles 3年前にオープンした、シュルレアリスムと20世紀美術専門の画廊。「ゆたかな瞳」という画廊名は、詩人ポール・エリュアールの詩集の題名から取った。 オーナーのジャン=ジャック・プレザンス氏の本職は医学者。10年前から作品の収集を始め、趣味が高じて画廊を開設した。画廊を開くのが夢だったというだけあって、展覧会の企画に力がこもっている。こぢんまりした画廊ながら、美術館並みのレベルの高さだ。ときどき制作するシュルレアリスム作家の回顧展のカタログも、採算を度外視しているのでは、と思えるほど立派な内容だ。 12月11日までは、チェコ出身の女性画家トワイヤン(1902-1980)の回顧展が開かれている。チェコのシュルレアリスムグループの創立者の一人。戦後パリに移住し、アンドレ・ブルトンらと交流しながら、没するまでパリで活動を続けた。コレクターの間では有名だが、一般にはあまり知られていないトワイヤンの作品に触れるチャンスだ。作風には、映画的な要素も感じられる。 この後は、精神病患者によるアール・ブリュット展を予定。(羽)
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27 rue de Seine 6e 01.4326.2791 |
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●Marquet エコール・ド・パリの画家アルベール・マルケのパリとイルドフランス風景。130点。1/23迄(月休)。 Musee Carnavalet : 23 rue de Svigne 3e ●Le Sacre de Napoleon peint par David ●Images du monde flottant 〈11月の写真月間〉 ●New York et l’art moderne. Alfred ●L’ombre du temps ●Mario Giacomelli Vintages (1953-1968) |
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