長らくお役人の肩書きを持っていた加藤さん。仕事の後もピアノのレッスンを欠かさない彼が、やがて音楽の世界に身を投じるのは、自然ななりゆきだった。
昔からアズナブールの歌が大好きだったが、フランスとの密接な付き合いは約15年前から。自身が指揮をとる地元名古屋のライブハウス「エルム」の歌手を率いてパリ公演を行って以来だ。
米国経由の薄くて味のないインスタントコーヒーのような音楽がもてはやされる風潮に疑問を持ち、「味わい深い詩とメロディーが織り成す大衆文化=シャンソンの魅力を伝えたい」と思うように。以後、音楽家の活動と並行して、訳詞を付けシャンソンを紹介したり、フランスの歌手を招き全国公演を企画してきた。彼が蒔いた種は着実に実を結び、93年にはフランス文化勲章、昨年はユニバーサル社から感謝状、地元名古屋はドラノエ市長に「シャンソン都市」と命名された。
さて、現在加藤さんの活動で重要な曲が2曲ある。まずモネの連作「睡蓮」を生んだジベルニーの庭がテーマの「Le Jardin de Monet モネの庭」。作曲家として参加した本作は、モネ財団により公式イメージソングとして認定され、昨年日仏両国で発売された。
もうひとつは、来年開催の愛知万博公式イメージソング「ブラボー!ムッシュー・ルモンド」。現在、訳詞者、演奏家としてプロモーション活動に忙しい。もともとは作曲者である人気歌手ミシェル・フーガンが万博のために快く提供してくれたシャンソン。万博に際し世界16ヵ国語、26人の歌手がCD録音した。
公務員時代に社会福祉事業に力を注いでいた加藤さんだけに、命と地球への壮大な賛歌である本作への思い入れは一層強い。「シャンソン・フランセーズの真髄は、平和への祈り、願い、叫びです。国境を超え、人の心を結ぶことのできるシャンソンの力が、今こそ再認識されるべきなのです」(瑞)