法定翻訳家の前野寿邦さんの事務所を訪れた。在仏34年、法定翻訳というカタイお仕事柄にも関わらず、ご本人は、とても気さくで、穏やかな笑顔で迎えてくれたのでひと安心。 法定翻訳の仕事とは、学校や役所に提出する正式な書類の翻訳だけかと思いきや、前野さんは、犯罪や事件にまきこまれた日本人、またはその家族の裁判などにも立ち会い通訳もするそう。慣れない外国暮し。自分一人ではにっちもさっちもいかなくなった時、前野さんのような人が現れたらどんなに心強いことだろう。 前野さんがスゴイのは、これだけではない。法定翻訳のほかに、辞典を出版したり、美術評論といった活動をこなしていることだ。こうした活動の原動力は、持ち前の好奇心。「翻訳の仕事だけではやっていけない。他の活動があるからやってこれたんです」。昨年の5月に、「エステティック実用仏和・和仏辞典」を出版した。国際的に通用する資格を得たいエステティシャンの卵の必読書となりそうなこの辞典は、化学から薬学、医学用語まで包括していて、いまどきのエステやコスメ業界では、こうした用語が必要なことに驚く。また、本格的にフランス語を勉強したことがない人が対象なだけに、すべてのフランス語の読みにカタカナ表記が。「表記は自分の思ったとおりにしました。”大阪人の発音” なので、自分とは違うと思う人がいるかもしれませんね」 実は前野さんが、34年前にシベリア鉄道を利用して来仏した目的は、美術史の勉強にあった。実際、パリ大学で美術史を専攻し博士号まで取った。だから、翻訳のかたわら、美術評論にも携わっているのも当然といえば当然なのだ。そんな前野さんの次なるプロジェクトは、ルーヴル美術館のガイドブックの作成。ルーヴルの見どころが、詳細な道順(!)ともに前野さん独自の解説で展開する懇切丁寧なガイドブックだ。「ルーヴルでは、見落としがちなオブジェ・ダールに面白いものがあるんですよ」。小さなオブジェにも、現代人がはっとするようなイメージやデザインの紋様が刻まれたりしていて必見なのだそうだ。原稿はほとんど出来上がっていて、現在は、出版社と交渉中。年内には出版の予定とか。(里)
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*「エステティック実用仏和・和仏辞典」(320頁/新書版 2940円)についてのお問合せは、 |