新学期以来、パリ北郊外オーベルヴィリエの高校女子生徒アルマ(18)、リラ(16)レヴィ姉妹が教室でもイスラムのスカーフを被り、学校側の妥協案(首の後で結び喉元を出すかスカーフより小さいバンダナにするか)も拒否したことで二人が退学処分になった。15年来くすぶってきたスカーフ問題が再燃、公教育の非宗教性をめぐる論争が今まで以上に深刻化している。 アルマ、リラさんの家庭はイスラム系ではなく、母親はカトリック、父親は弁護士で無神論者。従って彼女らのスカーフへの執着は、ムスリム系移民の2、3世女子が抱える家族の圧力によるものでもなく、また郊外団地地区などでミニスカート姿の女の子を”売女”と蔑むムスリム系青少年から身を守るためでもなく、教育より宗教を重んじる信念に根ざしているよう。 80年代以降、中高校での女子イスラム教徒のスカーフ着用が問題になり、1989年、コンセイユ・デタ(国務院)は「生徒の宗教的表徴の着用は公教育の非宗教性とは矛盾しない」、「勧誘や挑発的でない限り、生徒はスカーフや十字架、ユダヤ人の帽子キパなどで各自の宗教を表明する権利がある」としている。そして問題が生じた場合は校長の裁量に任せられるとした。じつは規範法則を避けたこの曖昧なくだりが、校長や教師をスカーフ是非論と非宗教教育の板挟みにしている。 例えば、3年前に南郊外アントニー市の小学3年の女子生徒がある日から突然スカーフを被り始め体育も欠席し、両親も教師の説得に耳をかさず対立が続いたため、同市内18校の教師の85%がストに突入。文部省は彼女に通信教育を勧め受講料を免除した。が、両親が提訴した。同裁判の判決は「小学生の退学処分は違法」とし、退学処分を無効にした。 政治家から知識人、フェミニストまで憲法が定める宗教の自由には異論がないものの、イスラム女性のスカーフを男尊女卑のシンボルとみなし、男女平等に反するとみる層が増えているようだ。教師の間では、教育の場でスカーフを黙認し、生徒がイスラム教に従いある科目を拒否することを許したら公教育の破たんにつながるので、校内でのスカーフを禁止する法律が必要と考える硬派と、学校は多文化を受け入れる場であり排除する場ではないと、生徒との話し合いによる個別的解決を望む寛容派とに分かれている。 教育界だけでなく、最近、パリ市庁舎でもイスラム女性職員が3年来スカーフを被り男性との握手も避けるので、ドラノエ市長は「公務員としての中立性を欠く」として彼女を休職処分にしている。 1905年に制定された政教分離法が、今日、公共・教育の場でイスラムという新しい要素を消化できないなかで、シラク大統領はスタジ委員会を設け、非宗教性法則の施行のために新たな法律が必要かどうか年内に解答するよう命じている。 ユダヤ・キリスト教文化が支配してきた社会の中に新しく根付き始めているイスラム教を国民がどう受け入れるか、フランスがいちばん恐れている、宗教によるコミュナリズムの芽が出る前に政府はどのような対策をとれるか、21世紀の新しい課題といえよう。(君) |
イスラムのスカーフ調停者介入件数 |