先日リベラシオン紙で、アーノルド・シュワルツェネッガーのカリフォルニア知事選騒動の行方を、アクション映画に見立て大いに皮肉った記事を見た。「アウトサイダー的ヒーロー(俳優シュワルツェネッガー)が並外れた野望(知事選出馬)を抱くが、数々の試練(誹謗・中傷、不利な証言)が待ち受ける。だが助け舟(ケネディ家系の彼の妻)が現れめでたくハッピー・エンド(当選)」といった具合だ。友人によるとフランスでは伝統的に何でも手を出す人を軽んじる傾向があるのだとか。 では詩人、作家、批評家、戯曲家、画家、素描家、映画監督と複数の肩書きを引っさげ20世紀を駆け抜けたジャン・コクトーはどうだろう。確かにインテリの間では今だに評判が芳しくないのではないか。 現在ポンピドゥ・センターでは彼の大回顧展が開催中だ。入り口には彼の多才ぶりを示すようなポートレートが掲げられる。気難しい面持ちのコクトーが千手観音さながらに手を四方八方に伸ばし、商売道具の絵筆、万年筆、本などを握っている。だがその写真の下には大きく「POESIES」との刻印がある。ここで彼の作品は沸き上がる詩を伝える手段に過ぎず、彼自身何よりも詩人だと主張していたことを思い出そう。 では彼がいう詩とは何であったのか。千点もの作品と資料が集められたこの展覧会は、彼のポエジーの世界に浸る絶好の機会をもたらしてくれるだろう。 作品という名の糸を手繰り寄せるように進むと、「POESIES ポエジー」、「PARADES パレード」、「COINCIDENCES 偶然の一致」など、テーマ分けされた薄暗い空間へと次々に吸い込まれていく。 舞台コスチュームや春画まがいのデッサン、有名画家によるコクトーのポートレートなど貴重な展示物にも心惹かれるが、やはり胸に反響してくるのは、鏡、睡眠、死と再生、神話などお馴染みのテーマやモチーフだ。例えば、逆回転のフィルム上で永遠を生きる花びら。それらは、映画よりも出来過ぎな筋書きで知事となったシュワルツェネッガーよりも、一層真実でリアルなものとして浮かび上がってはこないだろうか。 今さらコクトー? いや、人工的な事実に見えない真実が脅かされる今こそ、彼のポエジーに耳をすます時かもしれないのだ。「事実である歴史は嘘になるが、嘘である神話はやがて真実になる」(瑞) |
*ポンピドゥ・センター 1月5日まで(火休) 11h-21h(木は23hまで) |
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Madeinutopia
折も折、政府の発する禁煙運動に抵抗するたばこ屋の、全日ストライキの翌日にエキスポは始まった。 イメージの権力作用に対し独自の美学で展開してきた「madeinutopia」。文化の政治性、文化の権力を中和し加工したユートピア製の理想を、今回は『FUMER TUE』に一議あり、と、タバコケース(ケースに入れてしまえば “喫煙は殺す” は隠れてしまう)に表現した。例えば「Fumez “NE PAS”」(”禁煙” というマークのたばこを吸いましょう)のように、アンチ・タバコでもアンチ・アンチ・タバコでもない。”社会の悪” を引き起こす可能性のある他の製品や行為、例えば車体には「スピードは殺す」と、表示する規制(政策)のない矛盾。この禁煙政策の含蓄する心的操作の危険性を示唆しているのだ。 ベンサムの刑務所改善案「中央監視塔(パノプティコン Panopticon)」は、思想家フーコーが近代管理システムの起源とした。その塔は目に見えない監獄の「不在の視線、遍在する視線」へと内面化し、日常生活に浸透する。自由主義、民主主義のもとに、自主的に規範や規律に従っていると思っている、本当に自分の欲求かどうかの検証も出来ぬまま模範的市民になってしまう。共同体の心性を作り出すイメージの社会的働き=文化がそれに加担してしまう。次の善良市民向けのプロモは「禁酒」だろうか?(麦) |
http://www.madeinutopia.fr *この記事のフランス語版 |
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●SOTO (1923 -) ヴェネズエラ人作家。50年代にティンゲリーらとキネティック・アートを先駆け、60年代以降、オプ・アートを展開。11/22迄 Galeries Denise-Rene (2カ所): 22 rue Charlot 3e (14h-19h月日休) 196 bd St-Germain 7e (同上) ●Zao WOU-KI(1923 -)《回顧展》 北京に生まれ、1949年に来仏。西洋の抽象画家との交流を経、中国の墨絵の真髄を保ちつつ独自の世界を展開。12/7迄 Jeu de Paume: 1 Place de Concorde 1er ●Robert DOISNEAU (1912- 94) 50年代以降の写真80点。11/29迄 Galerie Claude Bernard: 7 rue des Beaux-Arts 6e (13h-19h 月休) ●Francois BOUCHER(1703-70) ルイ15世時代に流行ったロカイユ、ロココ様式の代表画家、ヴェルサイユ宮殿他の装飾も担当。デッサン約120点。12/21迄 国立高等美術学校 : 14 rue Bonaparte 6e ●《Made by Chinese – Photo》 現代中国人写真家11人(11/15迄)と 12人(11/20 – 12/31)の作品。 Galerie E.Navarra:16 av. Matignon 8e ●Edouard VUILLARD (1868-1940) アンティミスムの代表的画家、ボナールとナビ派を結成。回顧展。1/5迄 グラン・パレ(火休) ●Frederic BAZILLE(1841-70) モンペリエ出の初期印象派画家。 1/11迄 Musee Marmottan: 2 rue Louis-Boilly 16e ●中国西部・四川省《青銅器時代》 揚子江上流域で発掘された紀元前7~3世紀の青銅器類。 2.6mのブロンズ製彫像他、壷や儀式用備品約60点。1/28迄 パリ市庁舎: Salle St-Jean (月休) ●《L’Algerie en heritage》 紀元前200万年、旧石器時代から6世紀までアルジェリアに遺されたギリシャ、ローマ、ビザンチン、キリスト教、イスラムの各文明を表す発掘品約150点。1/25迄 Institut du Monde Arabe (M:Jussieu) ●《ドラクロワからルノワールまで》 アルジェリアが仏領になった1830年以降、画家たちはトルコ以外の”オリエント”を発見。ドラクロワは現地で室内の女性に、ルノワールは風景や衣服に映える純白の輝きに魅せられる。1/18迄 (同上) ●《ドラクロワからマティスまで》 19~20世紀初頭、シャセリオー、デュフィ、ドラクロワ、ドラン、スーラ他のオリエンタリスム派と呼ばれるデッサン約60点。 1/19迄 ルーヴル美術館 (火休) ●ボッティチェリ(1445-1510) 『アペレスの「誹謗」』や『受胎告知』他20点余りとデッサン数点。2/22迄 リュクサンブール美術館 (火水木11h-19h/ 月金土日- 22h30) : 19 rue de Vaugirard 6e |
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