中国に返還される直前の香港を舞台に8歳の少年、リトル・チュンの日常を描く。その向こうに見えてくるのは…? 初めてフルーツ・チャンの作品を観たことになる。すでに彼は『メイド・イン・ホンコン』(’97)、『花火降る夏/ザ・ロンゲスト・サマー』(’98)で名の知れた監督なのだが、(吉)は見逃していた。反省! 生粋の香港っ子、リトル・チュンの少年魂が面白い。おばあちゃんっ子で、おばあちゃんが一日中つけっ放しにしているTVで、物心つく前から歌謡映画を観て育った。父はレストランを切り盛りし母は賭け麻雀に忙しい。フィリピン人の乳母が一人っ子のチュンの面倒をみている。近所のチンピラ・ヤクザが時々イヤがらせに訪れる。チュンは幼くして人生で一番大事なのは〈お金〉であると自覚した。我々の育った環境や意識とはずいぶん違う。中国人のルーツとバイタリティーが、この8歳の少年にすでにしっかりと根付いている。 お金をためるために、少年は父親から出前のバイトを貰う。そんな彼の前に一人の少女、ファンが出現する。彼が彼女に一目惚れしたのは、自分と同質の魂と価値観を彼女がもっていることを即座に見抜いたからだ。チュンは躊躇せずにファンを追いかけ、出前を手伝ってくれたらバイト代を7・3で分配すると提案。こうして〈お金〉を媒介とした友情が芽生える。しかし、じつはファンは中国本土からの不法滞在者で、やがてチュンの前から姿を消す…。 アジアのハリウッド、香港映画界においてフルーツ・チャンは希有なインディペンデント監督で、それは彼の映画作法からも伺える。映画は作り物だけど、作り物だけじゃない部分が『リトル・チュン』にある。少年と少女の幼さを残しながらも不敵な表情が忘れられない。(吉) |