ここ数年来、オランダのファッションデザイナーが際立った活躍をしているが、この国にはファッションへの「無関心」という伝統があるそうだ。ユトレヒト・セントラルミュージアムのファッション・キュレーターは、この伝統は17世紀にまで遡ると考える。当時オランダでは権力は地方に分散され、国王は役人のようにみなされた。フランスとは対照的に宮廷は文化の中心ではなく、ましてやファッションの発信源ではなかった。宗教面では禁欲的なカルヴァン派の道徳観の影響で、富を外面にさらしてはならないとか、贅沢やおしゃれに身をやつすと人生の本質から遠ざかってしまう、との考えが今日でも根強いという。 オランダは物流の中継地点ではあるが製造業があまりなく、繊維産業も発達していない。デザイナーたちは縫製のアトリエが見つけられず、生産態勢が整わない状況に置かれてしまう。その点、優秀なデザイナーを輩出するので有名な、お隣りベルギーのアントワープは、生産態勢も市場も備わっているのが成功の理由のようだ。 でも、そういうモード産業の土台がないことが逆に新しいエネルギーを産んだ。伝統的素材や、技術に縛られず、新しい素材や、自分自身の手で作った布を使い、市場を意識しない自由なレベルでのデザインが可能になった。オランダ・モードの旗手、ヴィクトール&ロルフが言うところの「ゼロから始めることがベスト」というのも、これなのだ。この展覧会では、V&Rをはじめ、こういう土壌から芽を出したデザイナーたちの作品が並べられている。地下に展示されているヨングストラのコートはフェルトから手作りだ。実に実に、力強い。参加デザイナーのなかで「オランダ・モダニスムの創立者」といわれるアレクサンダー・ヴァン・スロベのメンズ・ブランド “SO” は、日本でも人気だ。彼はアーネム芸術院で、オランダの伝統的グラフィックとリートフェルト、モンドリアンらの作品に直面させられ、「できるだけ多くのことを省くのが芸術。抽象的であるほど良い」と教育を受けた。「形よりもコンセプト優先」は、この展覧会のキュレーションをし、世界的に評価の高いデザイン集団Droog Designのモットーでもある。 白いブラウスに腕を4本つける。2本には腕を通し、もう2本は体に巻き付けて優しさや愛情を表現する。また、2本の袖を胸に巻き付けて「傷つきやすさ」を醸し出す・・・など「衣服に態度やそぶりを加える」ニールス・クラバース。こんなことをやってくれるなら、「コンセプト優先、着心地は二の次」でも万々歳、と両手を挙げてしまう展覧会だ。(美) “Dutch Modernism:la mode en version neerlandaise” : 3月11日迄 Institut Neerlandais : 121 rue de Lille 7e (月休) |