先年、国際美術展「流動するグローバルシティ」や「パリジャン」を企画した中国人批評家フー・ハンルーとエヴリーヌ・ジューアノのキュレートで実現した現代美術展で、選抜されたのはパリに一時滞在として立ち寄っている (?) フランス人以外の作家ばかりである。
戦前からパリはあらゆる異邦の芸術家が立ち寄り、または定住した都市だが、今も多くの外国人作家が流入している。しかし戦前の様態と、グローバリゼーションが顕著な現在とではその内容が大きく異なる。今日、とりわけ大都市では、様々な国籍の芸術家が一時通過者として滞在し、仕事をして簡単に他の場所に移動することが日常となっている。この現象は、明らかに都市やその文化に大きな変容をもたらしている。もはや多文化的な混在は不可避と言えるほどになった。
ここでは非ヨーロッパ人の作家、とりわけアジア人、中でも中国人、日本人が積極的に取り上げられた。
フィクションとしての巨大都市を写真化した天江竜太、日常の小さな仕草を出来事にした谷内恒子、ほとんど音として感受していない外部の騒音や蛍光灯のノイズをラジオを通して増幅してみせた中山じろー、現代都市の崩壊を予感させるシェン・ゼンのロウソクによる構築物、西欧の極端な異文化としてのイスラムや中国の思想書を並列してみせたフアン・ヨン・ピン、昨年12月の大暴風雨の体験からか、きれいに描かれた樹木の水墨着色画と現物のなぎ倒された樹とを対比させてみせたヤン・ジーチャン、食パンの亀裂を糸で縫い付ける作業を毎日繰り返した韓国女性作家ハン・ミョンオクなど、現代人には不可視 (聴) になったものや仕草を見えるようにする彼らの感性に耳をそばだてるべきではないか。(kolin)
*Musee d’Art moderne de la Ville de Paris:2月18日まで
Memoire des camps
ユダヤ人、ジプシー、反体制者、同性愛者、「エホバの証人」信者などを社会から抹殺するためにつくられたナチスの強制収容所の写真を、ナチス政権が確立した時期から終戦直前まで(1933-45)、1945年の強制収容所解放時、戦後から今日まで (1945-99)、の3部に分けて展示する。
人種、宗教、政治的思想の違いが原因となった殺し合いは現在も絶えないが、ナチスの強制収容所ほど、大規模かつ組織的に大量の人々を不当に殺戮したものはないだろう。しかし、戦争のない国に育った世代には、現実味のない出来事となっている。それだけにせめて写真という残像であっても、自分の中に潜んでいる残虐性を自覚し制御するためにも、これらの写真を見る必要があるだろう。
番号を打たれ、実験台にされ、殺されていく人々。一方、一夜にして権力を失った支配者たち。大量殺戮が行われた強制収容所の写真が少ないとの批判もあるようだが、だからといって展覧会の意味が無効になるわけではない。反面、強制収容所を自己表現のモチーフにした現代写真家たちの詩的な「作品」も、並立させて展示するキュレーターの感覚には異議を唱えたい。(仙)
*Hotel de Sully : 3月25日迄 (月休)
62 rue Sainte Antoine 4e
● Karel APPEL (1921 – )
アムステルダムに生まれ、1948年コブラ・グループ結成に加わる。色彩 とフォルムの瞬間的発露を捉えた12作。2/17迄
Galerie Lelong : 13 rue de Teheran 8e
●イタリア初期ルネサンス絵画展
14~16世紀前半までのジョット、ティントレット、ティツィアーノ他47点。3/25迄
Musee Jacquemart – Andre: 158 bd Haussmann 8e
●<光の芸術:ジェマーユ>
Gemmailはステンドグラスの一種だが、色ガラスの破片を透明な樹脂で幾層にも接着。1950年代ピカソ、ルオー、コクトーらのジェマーユ作品も展示。
Paris Histoire: 44 rue F. Miron 4e(14h-18h)
●ALECHINSKY~ZAO WOU – KI
“Signes, traces, ecritures”と題し、現代作家たちの墨・水彩 デッサン約80点。
3/19迄 ポンピドゥ・センター(火休)
●ARMAN <20世紀>
過去20世紀の各世紀を特徴づける歴史的出来事を象徴化したインスタレーション 20作(伊小説家Umberto ECOが協力)。
3/21迄 Couvent des Cordeliers : 15 rue de l’Ecole de Medecine 6e (月休)
●アメリカン・フォーク(民衆)アート
米国で17~19世紀に盛んだった、独学の作家たちによる作品約100点(NYクーパーストーン美術館所蔵作品)。3/24迄
Mona Bismarck Foundation: 34 av.de New York 16e (日月休)
●Friedl DICKER-BRANDEIS
ウィーン生まれ(1898-1944)。バウハウスでクレーと出会いテキスタイル、装飾デザイナーに。42年ナチ収容所に送られ、44年に死去。絶望感が透明な影をおとす作品と、収容所の児童のデッサン。3/5迄
ユダヤ美術・歴史美術館(Hotel de Saint -Algnan): 71 rue du Temple 3e (土休)
●Ernst BILLGREN(1957 – )
スウェーデン作家。西洋の巨匠作品を模写しながら技術を磨いた独学派。事物、動物、人物等寄せ集めたポスト・モダニズム風作品が多い。3/18迄(14h-18h 日休)
スウェーデン文化センター:11 rue Payenne 11e
●BOURDELLE <写真>
自身が撮影し彫刻制作に役立てた1890~1920年の未発表の写真約200点。3/31迄
Musee Bourdelle : 18 rue Antoine-Bourdelle 15e (月休)
●Jean-Pierre ALAUX (1925 – )
18世紀以来代々画家・建築家の家系で今日仏巨匠の一人。時空・生死・宇宙・大地など形而上的幻想空間を表わしたハイパー・リアリズム作品。3/31迄
Galerie M. Boulet:14 rue de la Boetie 8e
●オーストリア表現主義作家展
20世紀初頭、肖像画に内面と心理を表出させたココシュカ、クリムトの影響から脱し、悲壮感にひしぐ裸婦像を突き出したシーレ、フランスでは知られていないウィーン作家Gersti、Boeckiの作品約150点を”La vérité nue”と題して展示。4/23迄
Musee Maillol:61 r. de Grenelle 7e(火休)