パリから南西四百キロ余り、ナントとポワチエの間にある人口六千人弱の小村プゾージュ。夫の長年の念願だったパリ脱出にくっついて来て、ここに住み始めて二年半、田舎暮らしは退屈でないと言えば嘘になるけれど、大都会から離れて暮らす人たちの警戒心のなさ、人なつこさは正直うれしい驚きでした。でも四月十三日、この信じられないような恐ろしい事件が起こったのです。
家から歩いて数百メートルのカフェで夜遅く、ぐでんぐでんに酔ってパトロンヌにしつこくせまる二人の男性を見かけ、仲裁に入った黒人男性が、数十分後に猟銃をかかえて再び戻ってきた二人に「うすぎたねぇ黒人め」と射殺されたのです。翌日、このニュースを知った私は呆然としました。殺された本人もその家族も私は直接は知りませんが、知人に頼んで遺族に会いに連れて行ってもらいました。三十四才の若さで、十三才、七才、三才の三人の子どもをかかえ、突然寡婦となってしまったパトリシア…。いったいどんな慰めの言葉があるというのでしょう。ただ抱き合って一緒に涙をながす以外、私には何もしてあげられません。
人種差別というものが人間の意識の中でも最も下等で、危険であることを学ばず成長していく人間は、どこにでもいるのでしょう。そして酒と銃がきっかけとなって、何の罪もない外国人が全くナンセンスな死をむかえることも、あるということなのでしょう。パトリシアに残された幼い三人の子どもたちはこれからどういう目をもって世の中を見つめていくのでしょうか。(O.L)