ご主人のジルさんの転勤で、2月の初めに東京からパリに来たばかりの知砂子さんと雪ちゃん。ニースの彼の実家へ休暇ごとに来てはいたものの、フランスに、というより外国に住むのは初めてだ。
ジルさんは6年前にフランスのチーズ会社「ベル」に日本で就職し、無名だったベル・チーズの売り上げを爆発的に伸ばして故郷へ帰ってきた。12年も日本で暮らして向こうの習慣に慣れ切っているため、「ノン」といったら絶対「ノン」のフランス人の頑固さに同胞ながら驚いてしまうというジルさんだが、そうはいっても自分の国、戻って来てホッとしていることだろう。でも知砂子さんと雪ちゃんはどう感じているのか…?
「町にトイレが少なく、子供に『おしっこ』といきなりいわれるととても困る。メトロの改札が狭くてベビーカーで通り抜けるのが大変。でも人々が何かと手を貸してくれるので助かります。」
芸大出身の知砂子さんは日本ではイラストレーターだった。友人も大勢いたし、雪ちゃんと公園に行けば、お母さん同士のコミュニティーもあった。今は全部が変わってしまった。友達はいない。同じ年頃のお母さんはみな働いているらしく、公園で子供といるのはベビーシッターの学生か、お年寄りばかり。語学学校へ行こうと託児所を探したが、共稼ぎ優先の所ばかりだ。
一方、生まれた時からパパにフランス語で話しかけられてきた3歳の雪ちゃんは、日本ではなかなか口にしなかったフランス語をパリに来てからは自然に話すようになった。でもある日、公園でおもちゃを借りたくて”Prete-moi”といおうとしたが、Rの発音がうまくできなくて泣いてしまったことがあるそうだ。子供は言葉を覚えるのが早いとはいえ、雪ちゃんもまだまだ苦労している最中だ。
何もかも新しいふたりの生活は、今のところ困難が多そう。でものんびり構えてマイペースで頑張って!(仙)