1月1日ユーロが華々しく誕生した。安定成長を謳うユーロをもって、地球を支配してきたドル経済に切り込み、米国と対等に張り合える”国力”を築くという共通の願いを込めて、フランスを含む11カ国が主権のシンボルである自国通貨を放棄し、金融政策を欧州中央銀行(ECB)に一任するという歴史的な一歩を踏み出した。これを、1848年にヴィクトル・ユゴーが唱えた「ヨーロッパ合衆国」建設への萌芽ととる歴史・社会学者もいる。 が、ECBを頂点とする”金融共同体”から連邦制へと飛躍することへの賛否が論争され始めている。パスクワ元内相などはドゴール精神を盾に「フランスの主権、歴史、個性を守るため」RPR(共和国連合)とも手を切り、”Demain la France 明日のフランス”という新政党を結成。6月のEU議会選挙に出馬する意向を元旦に発表した。アムステルダム協定批准のため、1月18日に両院合同会議で憲法改正が決定されたことについても、国民投票を経ずなしくずしにフランスが国家主権を喪失することにパスクワ氏は反対する。 おりしもEU委員会と欧州議会との間に嵐が吹き荒れた。EU委員、クレッソン元仏首相とスペイン人マラン氏による職員の縁故採用や財政ミス等の汚職容疑で欧州議員がEU委に対する不信任動議(狂牛病問題に次ぐ)を提出。1月14日不信任案は反対多数で退けられたが、妥協策としてEU委の汚職等を調査・監視する監査委員会が設置されることになった。任期あと1年のオランダ人サンテール委員長の威信が問われているだけでなく、EUの”内閣”にあたるEU委員会と欧州議会との関係、ひいてはEU機構をさらに制度化すべきかどうかが問われ始めている。
呉越同舟する参加国の不均衡はいうまでもなく、15カ国の中でドイツはEU予算(910億ユーロ)の28%もの出資に対し受けている補助金はその半分にも満たない。シュレーダー独首相は、EU予算の4割以上が共通農業政策(PAC)に当てられている点を批判し、農業政策を各国に復帰させることでEU予算を25%削減できると提案する。仏・スペイン・ポルトガル・アイルランド・ギリシアなどは PAC に依存しているのだが。
経済成長の低迷する中、自国産業の保存と失業問題に汲々とする参加国の寄り集まりのEUに止まるか。もしくは、EU議会選挙出馬の仏緑の党リーダー、コンバンディットのいう「EU各国市民を守ることのできる新しい制度を生み出すことにより、ある種の連邦制へ向かう」か。またはジョスパン首相が望むように、”フランスを失わずにEUを築いていく”か。いずれにしても21世紀のEUは、ユーロの導入以上に政治家たちの想像力を必要としているようだ。