憲法改正案提出、無国籍者生む可能性も。
テロで有罪判決を受けた人の国籍を剥奪する条文を、憲法に追加する案の審議が2月5日、始まった。昨年11月にパリで起きた同時多発テロを受け、治安を強化する目的だが、無国籍者を生んだり、移民を中心とした二重国籍の人と、フランス国籍だけの人の間で不平等が生じる可能性があり、与野党内でも意見が割れている。
改正案は、テロやスパイ活動など、国民の生活に対する重大な侵害を犯し有罪判決を受けた犯罪者から、フランス国籍を剥奪するというもの。政府の説明では、フランス国籍の他に外国籍を持っている者だけではなく、フランス国籍だけの者も対象になっている。
現行の民法にも、こういった条文はあるが、二重国籍で、フランス国籍取得から15年以下の国民だけに限られている。政府は、対象を全ての国民に拡大したい考え。また憲法に盛り込むことで、国の大原則とする象徴的な意味合いもある。
改正案の条文どおりに法が適用されれば、無国籍者を生む可能性がある。しかしフランスは、すべての人が国籍を持つ権利を保障する国際条約に調印してきた。そのため無国籍者を出さないようにすれば、実際に国籍剥奪の対象となるのは、二重国籍を持った移民やその子孫に限られる。
極右政党の提案を、左派の大統領が採用したこの改正案。「二重国籍者とそうでない人の間で不平等が生じる」「無国籍者を出す条文を憲法に盛り込むべきでない」と、国の原則を問う意見から、左派・右派とも政権に賛同・反対すべきかという政治的思惑まで、左右両陣営で議論は尽きない。
審議開始の1週間前には、トビラ法務大臣が改正案に反対して辞任。テロ対策としての効果が見込めないことや、国が国民を追放する無責任さを訴える本を出版した。改正案の草案は、与野党の批判を受け、審議までに何度も書き換えられ、困惑が広がっている。
11月のテロ直後の世論調査では、90%の国民が改憲案に賛成と答えたが、1月末の時点では75%に低下している。
改正案は9日、国民議会で可決された。この後は、3月中旬に上院で審議される予定。最終的には上下院合同会議で、5分の3以上の票を得れば可決されるが、新聞各紙の予想は暗い。2月4日のリベラシオン紙は、無意味な政策だとして「ストップ剥奪」と訴えた。
政府は、テロと戦うため与野党問わず団結すべきだと議会に承認を訴えたが、矛盾だらけで人道的な危険性を含んだ案を前に、与党の団結すら崩壊しつつある。 (重)