1月6日公開の『トトと姉たち/Toto et ses sœurs』(アレキサンダー・ナナウ監督)の評判が良いので観に行った。
10歳のトト、14歳のアンドレア、17歳のアンナ、三姉弟のどん底の生活をカメラが1年に渡って追ったドキュメンタリーだ。
ルーマニアの首都ブカレスト近辺の集合住宅の一室で、文字通り肩寄せ合って暮らす姉弟。父は行方知れず、母は刑務所の中という家庭環境、部屋には薄汚れたソファひとつと、手作りの電気コンロしかない。名義上、三人の後見人になっている叔父は、仲間をこの一室に連れ込んで、人目を憚(はばか)らずヘロインを打っている。トトはこの日常風景を見ながら、空腹のままソファで寝入る。もう本当に、これ以下はないくらい最低な環境だ。それでも何故かトトには環境にめげない強さと明るさがある。ちゃんと学校に通い、クラブ活動のブレイクダンスで隠れた才能を発揮する。長女アンナは環境に負けヘロインに走り、家に踏み込んだ警察に捕まり留置される。難を逃れた次女アンドレアは、自らの意思でトトを連れて孤児院に入る。やっとまともな生活ができるようになった二人、それでも家に帰りたいと言うトトの話に優しく耳を傾けるアンドレア。出所したアンナはクリーンな生活を目指すが、ちょっとした躓(つまづ)きでまたクスリに溺れてしまう。そんな姉を救い出そうとするアンドレア。一方トトは、何とブレイクダンスのジュニア選手権大会で準優勝を果たす。映画は、長年の刑期を終えて出所した母を迎えに行ったアンドレアとトト、帰途につく列車の中の親子三人三様の微妙な表情で終わる。
この映画の魅力は「愛」。どんな状況下でも、愛があれば人は生き抜けるのだと映画は思い出させてくれる。姉弟愛、親子の愛、学校や孤児院やクラブの先生たちのまなざし…。たぶんこの子たちは自分のことを不幸だなんて思ってない。比較するすべもないのだから。この子たちを不幸で可哀想だと思うのは我々他人の視線だ。でも、この子たちは、生きてゆくのは辛いことだと感じることはあるかもしれない。でも生きてて楽しいこともいっぱいある。小さな幸せの瞬間は誰にもあるのだ。積もった雪に身を投げてはしゃぐ時の楽しさは格別だろう。
というわけで、暗くも明るいポジティヴ指向のこの映画、観に行った甲斐ありました。地味目の作品なので、頑張ってロングランして欲しいです。(吉)