皿の破片のモザイクで埋め尽くされた
シャルトルのピカシエットの家。
シャルトル旧市街を南に抜けた住宅地の路地に、レイモン・イジドール(1900~64)が30年以上の歳月をかけて作り上げたアール・ブリュットの傑作「ピカシエットの家」がある。
25歳で結婚した彼が、奥さんのアドリエンヌのために手に入れた小さな家は、外壁はもちろん、塀も路地も植木鉢も、すべてモザイク模様で埋め尽くされている。
シャルトルやモン・サンミシェル風景などが描かれた壁に近づいてみると、この色とりどりのモザイクは、割れた皿やビンなどの破片。ブロカントで買ったウチの皿と同じ模様だったり、白い楕円形はポットのフタの裏側だったり、墓に供えられている陶製の花だったり、見飽きない。
鋳型工や電鉄会社の作業員などとして働いていたイジドールが自宅の壁を皿の破片で飾り始めたのは1931年。38年ごろからは室内のモザイクにとりかかります。
狭い3部屋の生活の場は、壁、床、天井、そして台所の調理台も、テーブルや椅子も、寝室のベッドも、ミシンまでもが、すべてモザイクで埋め尽くされている。
戦後の1945年からは路地や中庭、塀にもモザイクを広げる。一時精神病で入院したけれど、退院後の49年からは近くの墓地の清掃人として働きながら、ひたすらモザイク制作を続けたのです。
3年からは「シャペル」や「夏の家」などを増築している。小さな礼拝室は、色が青を主調におさえられ、天井も床も一体になった空間に、天窓からの柔らかな光が差し込んでいます。信心深かったイジドールは、ここの制作に4年近くもかけている。キリストや聖母の周りの羊や草花が、クリュニー美術館の『貴婦人と一角獣』を思わせます。
「黒の中庭」とその横に建つ「夏の家」の壁には、サン・ピエトロ寺院をはじめ各地のカテドラルが白黒のモザイクで描かれ、屋根にはシャルトル大聖堂が載っている。
「夏の家」の外壁は、人形やカップなど他では使っていないガラクタが埋め込まれていて、室内はなぜか未完成です。
庭との間の小屋は、モザイクは一部だけで、モナリザや女性などの壁画が並んでいる。他にも女性像が多いけれど、これらはたいてい奥さんのアドリエンヌらしい。ミース・ファンデルローエに「神は細部に宿る」という言葉があるけれど、神さまもカミさんも細部に宿っているわけです。
ヒゲ男の全身像は20世紀初頭の殺人鬼ランドリューだという。
庭に出ます。いくつもの彫像やエッフェル塔などが草花に埋もれて立っている。
1958年から62年にかけて母屋の裏に造られた、「心の墓碑」というもうひとつの礼拝堂は、アーチ型のトンネルから入る洞窟状の部屋に、キリスト生誕の図などが青と黒のモザイクで描かれている。青はシャルトル大聖堂のステンドグラスの色、黒は大地の象徴だという。この屋根からは、ガウディみたいな塔がいくつも突き出ています。
イジドールは1964年にその生涯を終え、近くの墓地に奥さんとともに眠っている。
墓の向こうに彼が愛した大聖堂が見える。その姿は、ピカシエットの家の屋根の大聖堂と同じアングルなのです。(稲)
■ Picassiette
ピカシエットは、Pique assietteからの造語。
ピクは刺す、つまみ取る。アシエットは皿の意味だけれど、ピク・アシエットで他人の皿からつまみ食いすることを言う。それに Picassoをもじっているのだそう。たしかにこの自由な造形はちょっとピカソっぽいかも。使われた破片の数は440万個、重さはおよそ15トンと推定されている。
■ Maison Picassiette
22 rue du Repos 28000 Chartres
02.3734.1078.
4月から10月に公開 (11月~3月は休み)
10h-12h/14h-18h。4月は17hまで。
7、8月は10h-18h。
10月は土曜10h-12h30/14h-18h、
日曜14h-18h。5.60/2.80€、18歳以下無料。
■ アクセス
パリのモンパルナス駅からル・マン行き列車で約70分、Chatre駅下車。駅右手のバス停から4番のバスで10分ほどのPicassiette下車、徒歩4分。町の中心から南へウール川畔へ下り、ポルト・サン・モラールから旧市街を出る。交差点からrue Saint-Barthélémyを東へ。墓地正門前の坂道を上りrue du Souvenir Françaisを右折、墓地裏門前を過ぎ、道がrue du Reposに変わった22番地に入り口がある。
Maison Picassiette
Adresse : 22 rue du Repo, 28000 Chartres , FranceTEL : 02.3734.1078