ラ・ロッシュ・ギヨン
パリから北西へ70キロ、車で1時間20分、イル・ド・フランス地域圏で、唯一「最も美しい村」の呼称を持つラ・ロッシュ・ギヨンに到着だ。丘の上から顔をのぞかせるのは、12世紀の円柱のドンジョン(天守閣)。かつては北部から攻め入る敵を見張る要塞だった。13世紀以降は丘のふもとに城館が築かれ、断崖を掘ったり削ったり、新たに付け加えたりで、増改築が施されてきた。時代をまたいで「ちぐはぐ感」すら感じる建築に、大いに興味がそそられる。
城館から塔につながる階段は、石灰質の岩を削って作られた。真っ白だから雪のトンネルを進むようだ。途中には一面穴だらけの白亜の鳩小屋もある。「城主は鳩好きな博愛主義者か?」と思いきや、鳩ふんを肥料として使っていた時代の名残である。頂上へと向かう250段の階段は、傾斜がキツいが、登りきれば展望台がご褒美のように現れる。新緑を水面に映して流れる穏やかなセーヌ、枯葉色の屋根、城が所有するフランス式庭園が眼下に広がった。
城内にはサロン、遊技場、図書室などがあり、貴族の往時の生活が垣間見られる。ダンヴィル公爵夫人のサロンにある四枚のタピスリーは貴重なお宝。旧約聖書の「エステル記」が描かれている。1767年に夫人自ら注文したゴブラン織りであるが、実は1987年に、城は一度このお宝を手放している。だが15年前にが国や県が協力し、執念で買い戻しに成功した。ちなみに前の所有者は有名デザイナーのカール・ラガーフェルドだったとか。このダンヴィル公爵夫人はヴォルテールと親交を結ぶほどのインテリだったが、村人に積極的に仕事を与えたりと人柄も良く、人望も厚かった。だから革命が勃発して幽閉の憂き目にあっても、民衆の請願書のおかげで解放され、長寿を全うしている。
第二次世界大戦は、城に大きな爪痕を残した。ドイツ軍に占領された城には、司令部やトーチカが置かれた。1944年には味方であるはずの連合軍が、まだドイツ軍がいると勘違いして城を爆撃。この時吹き飛ばされたチャペルのステンドグラスは未だ直されておらず、ちょっと寂しい。だから「最も美しい村」ブランドに惹かれ、メルヘンの世界を想像して来たら予想は裏切られるだろう。むき出しの岩は荒々しい印象もあるし、歴史の舞台裏で秘密を内包してきたようなミステリアスな雰囲気も漂っている。だがそれらがかえって唯一無二の魅力となり、芸術家の想像をかきたててもきた。ミステリアスな魅力を最大限に利用した芸術家といえば、ベルギー人漫画家エドガー・P・ジャコブズだ。観光の予習に彼の推理冒険漫画「Le Piège Diabolique」を読んでおくと、さらに充実するはずだ。城内には、本作で登場するタイムマシーンのレプリカの展示がある。また村を歩けば、本作でリアルに描かれている教会や噴水、民家などがすぐに見つかるだろう。
さらにラ・ロッシュ・ギヨン村は、石灰質の洞窟ハウスで名高い。Route de Gasny、Rue de la Vieille Charrière de Gasny、Rue de la Charrière des Boisなどに村人が住む洞窟ハウスがあるので、足を伸ばしてみると楽しい。なかには芸術家のアトリエもあり、運が良ければ見学させてくれる。(瑞)
■ Château de la Roche-Guyon
1 rue de l’Audience
95780 La Roche-Guyon
7.8€(大人)/4.8€(13~18歳・学生)/4.3€(6〜12歳)/5歳以下は無料。
10月25日まで :10h-18h(週末と祝日は19h迄)
10月26~11月29日 :10h-17h
11月30日~2016年2月5日までは冬季休館。
毎週日曜の15hにガイドツアーあり。
コンサートや展覧会も実施。売店ではフランス式庭園産の有機栽培のジャムやポタージュが買える。
www.chateaudelarocheguyon.fr
※9月27日までRER線ポントワーズ駅とラ・ロッシュ・ギヨンを結ぶ特別バス 「Baladobus」が毎週日曜運行。
www.pnr-vexin-francais.fr/fr/decouverte-du-territoire/baladobus/
■ Poterie Olivia
洞窟ハウスで陶芸体験。
大人2時間35€、子供1時間半25€。
25 rue de la Charrière des Bois
01.3479.7043
http://fairedelapoterie.blogspot.fr
■ Bords de Seine
セーヌが目の前の綺麗なホテル&レストラン、
1泊55€(シングル)~75€(トリプル)。
21 rue du Dr Duval
01.3098.3252
www.bords-de-seine.fr