狂牛病騒ぎで、一時元気がなかった臓物屋が力を盛り返している。ふつうの肉屋に比べて一段低く見られている臓物屋だが、安くて、タンパク質やビタミン、鉄分が豊富な内臓たちが、失業者やこの不景気でサラリーも上がらない庶民たちの救いの神になっているのかもしれない。
子牛の頭tête de veau、子牛や子羊の脳みそcervelle、牛や豚のほほ肉joue、牛の舌langue、子牛の胸腺ris de veau、子牛などの心臓cœur、豚や子牛のじん臓rognon、牛や子牛のレバーfoie、豚足pied de cochon…。他に子牛や牛の腹部肉bavette、横隔膜を囲む肉ongletも売っている。高いのは子牛の胸腺とレバーくらいだ。
臓物屋さんの丁寧な下準備には頭が下がる。たとえば子牛のじん臓を買うと、表面を覆う薄い透明な膜をはがし、筋、真ん中にある脂をとってくれる。じん臓を買えば、二つに切り分けてからアンモニア臭い白い筋をきちんと除いてくれる。それにもかかわらず、臓物屋に列を作るのは、中年過ぎの客がほとんどだ。若い人たちは毛嫌いしたり、料理法を知らなくなってきているのだろう。
檀一雄の『檀流クッキング』にも、「悪食だなどと思ったら大間違いだ。これらのものを、利口に処理し、おいしく食べるのが、人間の知恵というものである」と前置きし、タンハツ鍋、豚マメと豚キモのスペイン風などが登場する。
いつか子牛の脳みその薄切りをフライにするレシピを紹介してみようかな。うまいよ!(真)