フランス南西部タルヌ県の湿地帯、テスク渓谷で建設が進んでいたシヴァンス・ダム建設反対派の一人、植物学専攻のレミ・フレスさん(21)が10 月25日深夜、機動隊の手榴(りゅう)弾が背中に当たり即死。翌日フレミさん追悼のデモが各地でくり広げられ11月1-2日、トゥールーズ、ナント、パリでも数百人の反対過激派が官憲と衝突、パリだけでも50人余を逮捕。緑の党デュフロ前住居相などは、官憲による活動家の殺害と警備隊の行き過ぎに対しカズヌーヴ内相の辞任を要求。
20年前からタルヌ県議会が全面的に支持し押し進めてきたシヴァンス・ダム計画は、13ヘクタールにおよぶ150万m3規模のダム。水を大量に必要とするトウモロコシ栽培者は約30軒にすぎず建設費用は840万ユーロ(国家50%、EUの農業援助金30%、残りは地元の負担)にのぼる。
同建設に反対する環境保護グルーブZAD(Zone à Défendre : 反対派活動家は Zadistes)は、建設用地にやぐらを建て(成田空港建設反対場面を思わせる)テントを張り占拠する。この湿地帯にせい息する生物は90種余あり、大企業による産業化などでフランスは年間約6万ヘクタールの自然地帯を削減、1960〜90年の工業化や都市化により全国で50%を喪失。政府は、ダム建設を地方分権化の一貫として地域圏・県議会に一任し、あまり関知してこなかったよう。
ロワイヤル環境相が2人の専門家に依頼した同計画の評定によると、ダムの規模が35 %も過剰とし、数カ所に共同で利用できる貯水池(個別の貯水池は185カ所に現存)の建設を提案。11月4日、環境相は県会議員や農業組合、環境保護団体代表との会議で、この計画は撤回しないが工事を一時中止し、代替策を暮れまでに決めると表明。だが工事を進めてきた建設会社や農業関係者らへの損害賠償問題なども残る。
もう一つ、住民とエコロジー派が反対し長年闘っているものに、ナント郊外のノートルダム・デランド空港の建設計画がある。構想は1968年に発し、建設が実現すれば2017年に開港の予定だった。すでにあるナント・アトランティック空港の飽和状態を緩和するためだったが、反対派は現存する空港の拡大・改造を考えるべきだと主張する。一方、地域圏・県議会議員は、新しい空港建設による地元の活性化を期待する。
20年以来続くダム建設計画やノートルダム・デランド空港建設への反対運動が激化するなかで、参加する若者たちは、彼らの行動を市民レジスタンスとみなす。ダムや空港、TGV網の建設計画を県・地域圏議会が多数決で「公益のため」として決定し、住民が知らぬ間に工事が進み、住民や自然保護団体が立ち上がった時には、官憲の催涙弾が立ちはだかる。政府が賛同する公益が建前の地方議員の独断と民意の隔離が浮き彫りに。
生産性促進のためテクノロジーを優先し、自然を踏みにじる国権によるレミ・フレスさんの死を、哲学者エドガール・モランは「文明との闘いのシンボル」とみなす(Le Monde 11/5) 。エコロジーというイデオロギーをこえて、国策に対する市民レジスタンスといえよう。(君)