14〜21歳の男女が人道的活動を志し、家出同然にジハード「イスラム国」に加わり、途方にくれる家族が続出。最近ある女性が、シリアにいた甥と連絡できトルコの国境に迎えに行った様子をテレビが報道していた 。彼はフランスの空港到着時に逮捕され、6カ月拘置され取り調べられる。
この数年間ジハードに加わったフランス人は約1千人にのぼる。そのうち女性は約150人、祖国に戻らない者のなかで40人余が戦死している。ヌーヴェル・オプセルバトゥール誌(10/2-8)が掲載した15歳のレアの体験を追ってみよう。
彼女はプロヴァンスの裕福な家庭で育った。日常生活に充たされずフェイスブックに「看護婦になりたい」と書いたら、ベルギーやシリアからも投稿が殺到。なかにはシリアで政府の化学兵器で殺された子供たちの写真を送り、「シリアに行って支援すべきだ」「フランスのモスケは間違ったイスラームを教えている」「あなたは使命を果たすために選ばれた」「行く勇気がないのはアラーを信じてないから」と、シリア行きをけしかける何十ものコメントが押し寄せる。
レアは化粧やジーンズをはくのもやめ友人たちとも会わなくなる。豚肉を避け、よろい戸を下げて1日5回お祈りをする。シリア行き勧誘者はパスポートの偽造からトルコ行きまでを指示。「トルコに行けばすでに選ばれたあなたの夫が待っている。そこで子を産んでシリアに行くべき」。ある朝、彼女の通学カバンから母親はiPhoneのコンテンツを発見し警察に届けた。治安当局は彼女のiPhoneを盗聴、「あんたは当局に監視されているからもはやシリアには行けない。仏国内の行動に移るべきだ」というSMSも読み取り彼女を逮捕。レアは自分が使命を果たせないことへの屈辱感と、ジハードが迎えにくるのではないかという妄想に襲われる。母親にジハード兵の蛮行(斬首した頭でサッカーをする)場面などを見せられ、自分がだまされていたことを認めたが、後戻りするには時間がかかりそう。
ジハードを志した青少年をもつ130家族を調査した人類学者ドゥナイ・ブザール氏によれば、彼らの70%は中流の無神論家庭、20%がムスリム系、敬虔なカトリック家庭は10%だという。現代社会の腐敗や不平等など諸悪に幻滅した若者は、ウェブサイトやYouTubeでジハードの過激思想に感化されアイデンティティまで破壊され、ロボット化されていく。シリアやイラクに向かわなくても彼らの国内での行動を危惧すべきとブザール氏は警告する。
9月に政府はジハード志向の子供を抱えた家庭への相談窓口を設けた。国民議会(9/18)、上院(10/16)もテロリスト対策強化法案を可決。ジハード応募者の出国を禁止し、過激派ウェブサイトを強制的閉鎖。「一匹狼的」テロ行為を防ぐため「個人的テロ計画」罪を新設。「イスラム国」によるフランス人殺害への呼びかけを危険視し、国内でのテロを警戒。空港・駅・領事館・宗教関係施設、競技場・繁華街他の警備態勢を強化した。
10年前ブッシュ元米大統領がフセイン体制解体の種をまいた中東に、彼が予想もしなかったイスラミズムのファシズムが進む。欧米諸国に空爆以外の戦う手段はあるのだろうか。(君)