さあ、しばらくは気分転換に、フランス料理を離れて異国料理をいくつか取り上げてみたい。異国の独特の調理法や、今まで疎遠だったスパイスや調味料と出会って、自分の「持ち味」を広げていく楽しさを分かち合いましょう。
最初はだいぶ前に書いて大好評だった、カモの胸肉magret de canardを薄く切って唐揚げにし、レモン風味のタレを添えたcanard au citron。中国料理です。タレの甘酸っぱさで、脂ののったカモがとてもおいしく食べられる。
前菜にするなら4人分として400 グラムほどのカモの胸肉を一つ買ってくる。カモの皮下脂肪はうまい、といっても少し脂ぬきをする。脂が出やすくなるように包丁で格子の切れ目を入れてから、皮を下にしてフライパンに入れる。ごくごく弱火で20 分くらいかけてじわじわと脂ぬき。ずいぶん出たなあという頃合いになったらひっくり返して、身の方は強火でさっと1分ほど焼く。にじみ出た脂は捨てずにとっておいて、ジャガイモのソテーなどに使うといい。
カモの肉が冷めたら、できるだけ薄く切って、ボウルにとる。しょう油、塩、コショウ、おろしショウガ、それにお酒か白ワインを振りかけ、30分ほど置いて下味をつける。
カモを揚げる前にタレを用意する。レモンを搾って小鍋にとる。砂糖、塩、水を適量加えて、甘酸っぱい味に調え、沸騰したら、水で溶いたコーンスターチ少々を混ぜ込んでトロミをつけ、冷まします。僕は塩のかわりにニョクマム 少々を加えることにしている。いり立てのゴマを加えると香りがぐんとよくなる。
カモの肉に、割りほぐした卵、コーンスターチを混ぜ入れる。あとは一枚一枚取り出しながら、高めの温度の油でカラッと揚げていくだけ。レタスの葉を敷いた皿に盛りつけて食卓へ。熱々のカモをジュッとタレにつけながら食べる幸せ。あっという間にみんなの胃袋におさまる。
ビールのおつまみとしても最高だ! この一品の他に、豆腐と野菜の炒めものなどを出せば、立派なご馳走になるでしょう。(真)
カモの胸肉一つ、しょう油大さじ4杯、酒大さじ3杯、ショウガ適量、卵1個、コーンスターチmaïzena大さじ約2杯、油、塩、コショウ
タレ:レモン1個、コーンスターチ少々、砂糖、塩(またはニョクマム)、水
●canard à l’ananas
中国料理では、カモ肉に甘酸っぱいパイナップルを組み合わせるのが上手だけれど、時によって砂糖も加わって甘過ぎたり、ソースがどろりとしていたり、がっかりすることもある。そこで、最後に好みの味付けができる一品を紹介したい。
4人分ならカモの胸肉2枚、大きめのパイナップルが1個必要だ。そしてフライパンが二つあると作業が楽になる。まずカモの用意をする。まず包丁で皮に格子の切れ目を入れるのだが、左のレシピよりも深めに、赤い肉がところどころ見えるくらいな感じです。これを皮の方を下にしてごくごく弱火で、皮にきれいな焼き色が出るまで焼いていく。
この間にパイナップルの皮をむき、八つに切り分けてから真ん中の芯を切り取る。これを1センチくらいの厚さに切り分ける。もう一つのフライパンにバターをとり、パイナップルを入れて、炒めていく。パイナップルが酸っぱすぎるなら、砂糖少々を振りかけてもいい。きれいな焼き色がついたら取り出しておく。
そろそろカモの方にしっかりと焼き色がついているはずだから、引っくり返す。このレシピでは、後で揚げないので、弱火のまま、好みの焼き加減になるまで火を通していく。ただ焼き過ぎてはおいしさが減るので、rosé(中心部がバラ色)を目指すこと。焼けたらフライパンから取り出し、塩、コショウしてからアルミホイルにくるんでおく。
カモを焼いた方のフライパンの余分な脂を捨てて、酒やしょう油、ウースターソース、水少々を加えて、フライパンの底にこびりついているうまみを溶け込ませ、大さじ8杯くらいのソースにする。
カモを薄く切り分けてから、パイナップルと一緒に美しく盛り付け、ソースをかけ回す。ボクは、コリアンダー(香菜)を上から散らすことにしている。
●カモ鍋
カモの胸肉は、カモ鍋にも最適だ。ボクは、半分は皮付きのまま、もう半分は皮を包丁ではいでから、どちらも薄切りにする。昆布だけのダシでは、カモの味に負けてしまうので、鍋に水を張り酒を加えたら、昆布と一緒に、はいだ皮の一部も入れて、しばらく沸騰させアクをよくとってダシを作る。具は、カモの他に、豆腐、ゆでて水気を切ったホウレンソウ(本来なら春菊)、シラタキ。ゴボウもいい。カモ肉はさっとくぐらせる程度が食べごろ。ボクはポン酢を添える。薬味はきざみネギ、七味唐辛子。