昨年9月から全国4万8 千校ある小学校のうち275校の実験校(ニース、リヨン、レンヌ、ストラスブール他)に〈男女平等のABCD〉教科が導入された。それは「女の子はおままごと、将来は美容師…男の子はサッカー、大きくなったらトラックの運転手…」といったステレオタイプの男女像を植え付けられ、「女に生まれるのではない、女になるのである」というボーヴォワールの名句が紙の上の言葉でありつづける今日、幼児教育から男女差の壁を壊すべきと、ペイヨン教育相とベルカセン女権相が進めた教科。
「えっ! 小学校でジェンダー理論を実践させるために女の子は男の子の格好をし、男の子はスカートをはき、ポルノを見せマスターベーションまでさせるんですって ! 」とデマか噂か、みるみる間に火の手がカトリック硬派や アラブ系母親たちの間に広がった。それに油をそそいだのが極右系活動家ファリダ・ベルグール(1984年アラブ2世の行進を組織)で、1 月24 日、アラブ系親たちに子供を学校から退校させるようネットで呼びかけた。それに呼応して同性婚法反対派「万人のデモ Manif pour tous」隊が2月2日パリで8万人、リヨンで2 万人を動員。思いもよらずイスラムとカトリック市民が呼応し合った。
そもそもジェンダーとは生物学的性に対する「社会的、文化的な性のありよう」であり、ジェンダー云々でヒステリックになっている親たちは、同性婚やホモセクシャル嫌悪、伝統的道徳の崩壊などをごちゃまぜにし、いきり立っている。彼らは、小学教育へのジェンダー論導入は、フリーメイソンやフェミニスト、同性愛者、旧68年世代のイデオロギー的煽動によるものと反撃する。
今日、家庭の半数が離婚・離別に終わり、150万人の子供が母子家庭で育っているというのに、彼らは、「子供にはパパとママが必要!」と叫びつづけ、「家庭破壊政策反対」、「学校は読み書き・算数を教えるところ、性教育は家庭に任せるべき!」と叫ぶ。民衆運動連合UMPコペ総裁などは、教育省公認の『Tous à poil ! みんな素っ裸 ! 』や「Papa porte une robe パパのドレス姿』『ジャンにはママが二人』といった児童書をヤリ玉にあげ、コチコチの親たちに検閲を促す。
昨年、政府が同性婚法を優先し、先送りした家族関連法案中、一番問題視されていたのがレズビアンの人工・体外受精PMAと男性カップルへの代理母 GPAに関する法案。PMAは不妊症の異性同士に認められているが女性同士には認められていないので、スペインやベルギーに出かけて手術を受ける女性もいる。逆に人工中絶禁止への逆行が進んでいるスペインからフランスに中絶にくるようになりそう。また代理母GPAは新生児の売買につながるとして政府も反対。が、伝統的規範に執着する保守市民の抗議運動に恐れをなしたのか、3 月の市町村議会選挙に備えてか、政府は同法案の国会審議を来年に延期するとデモの翌日に表明。同性愛者にも子供を育てる権利を認めるべきとする左派議員やエコロジー派は、ポピュリスト的圧力に屈する政府の弱腰を嘆く。40年前、国民の目を開かせた74年中絶解禁法、81年死刑廃止法に次ぎ、同性婚法は三大法の一つなのだ。(君)