アラン・ルプレストは、この最後のアルバム»Symphonique« で、長年の夢だったオーケストラをバックに歌うことを実現させたが、アルバム制作中に自ら命を絶ってしまった。このCDは、死の直前までに録音された彼自身の歌が7曲、クリストフら歌手仲間による彼のカバー曲6曲収録。旧友で歌手のロマン・ディディエが全編にわたりアレンジを担当した交響曲だが、全曲同じような感じで、彼の魂の叫びがかき消されてしまって、まるで葬送曲のよう。
『海に雨が降る』は、彼の故郷ノルマンディーを想う歌。ジェアンが歌う『ボトルを飲み終える時間』は、酔どれ詩人歌手ルプレストの生活そのもの。タバコをジプシー女にたとえた『ラ・ジターヌ』は、大喫煙家でもあった彼の歯にこびり付いたやにと指先の爪の垢を思い出す。サンセヴェリーノが歌う『SDF』が秀逸。最後の『役に立たないワルツ』は、孤独な男が歌うワルツで、ルプレストは今頃天国で、ひとり酔っぱらいながらワルツを踊っているかも。病んだ体を燃え尽くすまで歌いきった詩人歌手の不屈の精神がこのアルバムでよみがえる。(南)