9月22日ドイツ総選挙でアンゲラ・メルケル首相(キリスト教民主同盟CDU党首)が見事に3 度目の大勝利を果たした。2005年以来8年間、内外政ともに歴代首相顔負けの手腕を見せ「世界一強い女」、市民に愛される「ムッティ(おっかさん)」の揺るがぬ座を確立した。
CDUは、バイエルン州で圧倒的勢力をもつキリスト教社会同盟CSUと姉妹政党で、両党合わせて総議席630中、311議席(得票率41.5%)を獲得。議会の過半数を占めるために社会民主党SPDかそれとも緑の党と連立するかまだ未決定。05年選挙でCDU(35.2%)とほぼ互角だったSPD(34.2%)は、CDUと大連立政権をなしたが、今選挙では25.7%、緑の党も8.4%に後退。両党とも、フランスに倣い最低賃金制(時給税込8.5€/フランス9.43€)の導入と、富裕層の所得税引上げを公約に掲げたのが裏目に出たよう。5 人に1人(多くは移民労働者)は時給3€〜6€で働き、他国より家賃などが低いとはいえ仕事を掛け持ちする層が急増。失業率5.3%はフランスの半分。ドイツが誇る欧州一の産業の競争力と「柔軟性ある労働社会」の秘訣はこのへんにありそう。
意外だったのは左翼党が進出し(8.6%)、第3 政党に。一方、自由民主党FDPは4.8%に後退し議会から締め出される。4月に結成されたドイツ・オルタナティヴ党AfDも4.7%で5%以下なので議会には登場しないが、反ユーロ路線で支持者を増やしており、欧州連合を大事にするメルケル首相には要注意の新政党だ。
メルケル首相(本名アンゲラ=ドロテア・カスナー)は1954年ハンブルグに生まれ、父はプロテスタント神学者、母はラテン語・英語の教師。アンゲラは生後数カ月の時、牧師だった父と旧東独に移住。1970年代に大学で物理学を専攻しドイツ青年団に属すが共産党員ではなかった。在学中にウルリッヒ・メルケルと結婚、4年後に離婚。1998年、世界で有数の量子化学者ヨハヒム・ザウアーと再婚。旧東独出身のプロテスタント、再婚女性というイメージでリベラル派とみられ、コール元首相に庇護され「コール(石炭)のお嬢さん」と言われ、「鉄の女」サッチャー元英首相にあやかり「鉄のお嬢さん」とも呼ばれた。36歳で女性・青少年問題相に抜擢され、2000年にCDU党首に選出された。
物理学者として核燃料を認めたメルケル首相だが、チェルノブイリ以後、強い脱原発勢力に押され、福島原発事故直後に「2022年までに国内17基すべてを閉鎖する」と宣言、新エネルギー開発に努める。自然エネルギーの完全開発まで石炭エネルギーを切り札に昨年だけで1億8540万㌧を採掘。戦後直後のように露天坑が広がり、二酸化炭素の排出量も中国と並ぶ。
低い出生率(1.3)と人口の老齢化が進むなかで2030年までに人口が約500万人減少する。国力を維持するためには毎年約40万人が必要。昨年、東欧諸国やギリシャ、ポルトガル、スペイン他から約100万人の移民が入国したが大半は1、2年で帰国するという。ドイツを貧乏国からの移民の集合地にさせないためにメルケル首相の物理学者的手腕が期待される。(君)