最近、魚屋に100グラムちょっとの中イカが並んでいる。胴がふっくら盛り上がっていて、透明感があり、皮もしっかりついている。新鮮な証拠だ。こんなイカは刺身にしたってもちろんうまいけれど、今回はイカ料理が得意の南の人たちの料理を2品作ってみよう。
最初はオリーブ油、ニンニク風味。まずイカの下準備。指を胴の中にある軟骨とワタの間に入れるようにして、ワタを足ごと静かに引き出す。次にその軟骨を引っ張り出したら、目の下で足を切り離す。トンビというくちばしをのぞき、二つに切り割ける。生きがいいイカなら皮はそのまま、リング状に切り分ける。パセリとニンニクを細かくみじん切りにする。
フライパンにオリーブ油をとり、強火にかける。油が熱々になったら、イカを一気に加える。パセリとニンニクも加え、勢いよく混ぜ合わせる。塩(あったら塩の華fleur de sel)とエスペレット産唐辛子の粉piment d’Espeletteを振りかける。イカの色が白くなったら、すぐに火から下ろし、大皿に盛り付け、レモンを添える。メインというよりはアントレ向きかな。
次は南イタリアのカラブリア風à la calabraise。
カラブリア風というと、赤ピーマンが入り、唐辛子の辛みが決め手。イカはニンニク風味同様に下準備し、冷蔵庫に入れておく。赤ピーマンは、オーブンの上火で20分ほどかけてまんべんなく焦がし、皮をむき、種と白い部分を切り取ってから細長く切り分ける。ココット鍋にオリーブ油をとり、赤ピーマンを弱火で10分ほど炒める。ここで濃縮トマト、レモン1個分の搾り汁と細かくきざんだ皮を加える。さらにきざんだニンニクと唐辛子粉少々を加える。しばらく炒めたら、イカを加える。木のヘラで全体を大きく混ぜ合わせながら、5分も炒めればでき上がりだ。最後にきざんだパセリをたっぷり散らし、盛り付ける。付け合わせは、おいしい煮汁が味わえるようにライスが一番。ワインだが、どちらにも、よく冷やしたタヴェルTavelなどコット・デュ・ローヌのロゼ。(真)
ニンニク風味:イカ800g、パセリ半束、ニンニク6片、エスぺレット産唐辛子、オリーブ油大さじ5杯、塩、コショウ
カラブリア風:イカ1kg、赤ピーマン2個、レモン1個、ニンニク2片、濃縮トマト大さじ1杯、オリーブ油大さじ3杯、唐辛子粉少々、パセリ、塩、コショウ
●イカ
日本ではヤリイカ、スルメイカ、ケンサキイカ、コウイカなどと、イカは種類によってそれぞれ名前を持つけれど、フランスではcalmar(calamare)とseiche と区別されるだけだ。seiche はコウイカで、あとのイカはひっくるめてcalmar。同じcalmarが、バスク地方ではchipiron、南仏ではsuppionになる。encornetもcalmarの別名。
イカは胴がぺしゃっとしていなく、透明感があり、皮もしっかりついているものを選びたい。胴が白っぽくなって皮がはがれかかっているものは避けること。それに買ったらその日のうちに調理すること。フランス人のイカ料理というと、さっと塩ゆでにしてからサラダに加えたり、リング揚げにしたり、今回のようにさっとソテーしたり。とにかく火を通しすぎると固くなってしまう。色が白く変わったら、が目安だ。これとは逆に、スペイン風、ポルトガル風に白ワイン、トマト、ニンニクと気長に煮込んだものも、ソースのうまみを吸ってうまいが、一度固くなったイカがまた柔らかくなるためには、少なくとも1時間半は火を通さなければならない。
イカ料理といえば、ぜひ試してほしいのが、パリ11区のCasa Vigate(44 Rue Léon Frot 01 43 56 38 66)というレストランのシチリア風イカの詰め物。中にはピ スタチオがたっぷり詰まっている!
●piment d’Espelette
スペイン国境に接するバスク地方の、ピペラード、バスク風チキン、子牛料理アショアなどに欠かせない調味料といえば、エスプレット産唐辛子。辛さ控えめで、甘み、うまみがあり、料理に素敵なアクセントを付けてくれる。エスプレット町を中心に、厳しい規制のもとに栽培され、2000年よりA.O.C.(原産地呼称統制 ) として認定されている。9月になると収穫された唐辛子は、きれいに編まれて、日当りのいい家の壁などに吊るされ、乾燥される。