フランスのBD(バンド・デシネ=コミックス)界を代表する一人、ジャック・タルディ(66)がレジオンドヌール勲章を拒否した「1月1日の夜、メディアを通して自分がレジオンドヌール勲章をもらうことになっているということを知って、ビックリした。あらかじめ知らせてもらえなかったし一方的に押し付けられものだ。私は考えることや創作することの自由を徹底的に貫きたいから、現在の政権だけでなく、どんな政党からも何も受け取りたくない。だからこの勲章を断固として拒みたい。(第一次世界大戦中に)見せしめのために銃殺された兵士たちの名誉が回復されるようなことになったら、話は別だが…。敬意を払いたくもない人たちから認められても少しもうれしくはない」と潔い。
タルディは、『Putain de Guerre』などで、第一次世界大戦の塹壕(ざんごう)戦の過酷さ、将校たちの人命無視の命令で犠牲になった兵士たちのドラマを、厳しい写実で描いてきた作家だけに、当然の拒否だった。彼の祖父はこの戦争中に毒ガスで戦死している。最近作の『Moi, René Tardi, Prisonnier de guerre-stala IIB』では、第二次世界大戦中にドイツ軍の捕虜になった彼の父親が主人公。職業軍人だったこの父親は、戦争がもたらす悲惨さに嫌気がさし、インドシナ戦争時に退役している。
タルディは1946年8月、リヨンの南、ヴァランス市生まれ。パリの装飾美術学校を卒業した後、26歳で、代表的なBD雑誌ピロットでデビューを飾る。20世紀初めのパリを舞台に、さまざまな謎の解明に力を尽くす勝ち気な女アデル・ブラン=セックを主人公にした『Les Aventures extraordinaires d’Adèle Blanc-Sec』シリーズを1976年から次から次へと発表。2007年までに9作を出すという大ヒットになり、2010年にはリュック・ベッソン監督により映画化もされている。他にも、私立探偵ネストール・ビュルマが大活躍する、レオ・マレの連作探偵小説もBD化しているが、『Brouillard au pont de Tolbiac』など、パリの下町風景が丹念に描き込まれた傑作だ。
タルディは1977年に、積極的に政治運動を行っている左翼歌手で、BDのストーリーも書いているドミニック・グランジュと出会い、一緒に暮らすようになる。二人の間には4人の子供がいる。(真)