1年半ほど前にこの欄に、大麻のディーラー間の撃ち合いなどで市民が危険にさらされている、パリ郊外人口約5万人のセヴラン市のガティニョン市長(43歳。ヨーロッパ・エコロジー=緑の党所属)に登場してもらった。 密売から生じる犯罪に対する解決策は、「より害のあるアルコール飲料やタバコが市販されているのだから、大麻を合法化することだ」と主張して議論を呼んだ。
彼が市長を務めるセヴラン市は、コダックなどの大工場が移転したり閉鎖したりして税収入が激減し、また失業率が16%を超え住民税収入も頭打ち、そのうえ、RSA(就業連帯手当)などの支払いを地方自治体に分担させるという政策のしわ寄せで歳出が増え、毎年赤字。そのうえ銀行からの融資分に払う利子などで財政的に窒息状態にあり、フランスでもとりわけ貧困な100市町村のリスト入っている。
そのガティニョン市長が、11月9日から国民議会前にテントを張ってハンガーストライキに入った。 同市の来年度の予算成立上、銀行融資を受けるために欠けている500万ユーロの特別援助と、貧困な都市を援助するDST(都市連帯資金)の増額を要求してのハンスト宣言だった。
驚いた社会党政権は、話し合い、その他の民主主義的な手段で訴えるべきだと、あからさまに眉をしかめたが、ガティニョンは譲らない。「10年来、署名運動を行ったり、デモを行ったりしたがなんの変化もなかった。大声で叫んだり、最終的な手段に訴えなければ聞いてもらえないのだ」と答える。また、セヴラン市は無駄遣いをしているのでは、という批判にも「セヴラン市の予算額は、同規模の町のそれよりも35%低い」と反論。
この国民議会前のハンストに、マスコミは飛びついた。昼と夜のニュースで、「私にとってこの行為は、市民に対して私が負っている義務のひとつなのです」などとインタビューに答えるガティニョンの顔がアップになる。セヴラン市の住民だけでなく、パリ市民たちも、次から次へとテントにやってきて、激励の声をかける。2006年に、自分の選挙区にある工場の閉鎖に反対しハンストを行ったジャン・ラサル上院議員も応援にやってくる。パリ市は、豊かな税収入のおかげで、さまざまな恩恵や文化的イベントに恵まれているが、セヴラン市では、幼稚園の建設や道路整備なども遅れがち、市役所もプレハブ住宅のままだ、といった都市間の大きな格差に、手段の善し悪しの判断は別にして、ガティニョン市長のハンストは、あらためて目を開かせてくれたといえるだろう。
セヴラン市への特別援助470万ユーロが認められ、DSTも大幅に増額されることが決定し、11月15日、ガティニョン市長は6日間続いたハンストを中止した。(真)