教師と生徒、高校の国語(つまりフランス語)教師のジェルマン(ファブリス・ルッキーニ)と作文に秀でた生徒クロード(エルンスト・ウモエー)の倒錯的な関係と危険な遊戯。いかにもフランソワ・オゾン好みの主題だ。ジェルマンは作家志望だったものの自分の才能の限界を見極めている。クロードの作文力に関心をもった彼は、自分の夢を彼に託し個人指導を始める。クロードの連続小説のような一連の作文の源は、同級生ラファエルの家だ。それは絵に描いたような小さな幸せに縁取りされた親子3人の中流家庭。「作文の為に」クロードはラファエル一家に徐々に接近、家の中へ入っていく。それをそそのかすジェルマン。
アートギャラリーを運営する妻のジャンヌ(クリスティン・スコット・トーマス)は、傍らで夫の行き過ぎをたしなめながらも、作文の読者として、その展開にのめり込む。映画はしだいにクロードのラファエルの家における行動に重心が移る。観客は、サスペンスモードを駆り立てる音楽に伴われ、固唾(かたず)をのんでその様子を見守る。クロードはしだいに大胆になる。そしてラファエルの母、エステール(エマニュエル・セニエ)に恋心を抱く、そしてついにある日…。しかし、これは現実に起きていることなのか、作文の中の創造なのか??
創造(想像)が現実に追いつくのか、現実が想像(創造)を制するのか、意味深なテーマだ。映画作家、フランソワ・オゾンの作品の中では『スイミング・プール』の系譜。映画は、熱病の後のノスタルジーといったたたずまいで結末をむかえる。息をもつかせぬ1時間45分。オゾンは映画の達人だと言ってしまおう。スクリーンから映画の芳香が漂う。ちょっと古き良き50年代のテクニカラーのアメリカ映画のような…。『Dans la maison 家の中』は10月10日公開。映画らしい映画を観たくなったら、GO! (吉)