モンマルトルにあるアール・ブリュットの美術館が、イギリスのアウトサイダー・アート、大好評だった日本のアール・ブリュットに続き、19世紀後半から現代に至るイタリアのアール・ブリュットと民衆芸術展を企画した。
正規の美術教育を受けなかった人が、世間から認知されることを考えずに自発的なほとばしりで表現したアートがアール・ブリュットだが、それに加えて、高等教育を受けず、精神障害のある人によるアートがアール・ブリュットとされる場合もある。イタリアのアール・ブリュットの源流はまさにそこにある。
精神科医で犯罪学者のチェーザレ・ロンブローゾ(1835-1909)は、身体的・精神的特徴から「遺伝的に生まれつき犯罪を犯す宿命にある人がいる」という説を立て、その説を裏付けるために犯罪者による作品を集めた。
展覧会場の下階には、ロンブローゾ美術館所蔵のこれらの作品のほか、犯罪を犯していない精神病院入院患者の作品が展示されている。
会場の最大の傑作は、「新世界Le Nouveau Monde」と名付けられたフランチェスコ・トーリスの彫刻だ。1863年生まれ。両親は不明。33歳のとき、婚約者が妊娠していることを知らされ、そのショックで精神病院に入院した。その後6年間に、独学で、牛の骨を削った棒状のオブジェを積み上げ、建築的な作品を残した。人の顔や梯子が見える。無造作に重ねられているようだが、本人にしかわからない秩序がある。粗野がその対極まで突き抜けて洗練に到達している。崇高な雰囲気すら漂う。ここまでくれば、アール・ブリュットのレッテルは不要だ。
上階はナイーヴ・アートというべき民衆芸術の部だが、ニキ・ド・サンファール風あり、ジェフ・クーンズ風ありで、現代美術の二番煎じの感は否めない。下階のほうがはるかに見ごたえがある。
展覧会の題名の「芸術のごろつき団」は、本人もその作品も社会の既成の枠に入らない人たちを意味している。しかし、同じくアール・ブリュットの作家とされるセラフィーヌ・ルイやマルセル・ストールを見てきた人には、おとなしい作品が多いと感じられるだろう。(羽)
Halle Saint Pierre:2 rue Ronsard 18e。2013年1月6日迄。無休。
写真:FrancescoToris / Le Nouveau Monde (1899-1905)
Os de bovins 58x40x30 cm
Musée d’Anthropologie et d’Ethnographie de l’Université de Turin
© Halle Saint Pierre