ちょうど2年前の夏に問題になったロマ人不法キャンプ排除問題が再燃している。今回は、当時のサルコジ大統領の強硬策を非難した社会党政権によるものだけに、社会党は沈黙し、左翼戦線や欧州エコロジー・緑の党もわずかに反発を見せただけだ。
政界がバカンスに入る8月1日、セーヌ・サンドニ県のラ・クルヌーヴ市を皮切りに、8?9日はリールやリヨン周辺のロマ人不法キャンプを強制撤去。14日にもリヨンの建物を不法占拠していたロマ人が追い出された。2年前のような組織だった強制送還はなかったようだが、人道支援金(大人300ユーロ、子供150ユーロ)を支給して帰国を促しているということだ。内務省によると、強制排除されたロマ人たちは主にブルガリア、ルーマニア国籍で、不法占拠により裁判所の強制退去命令を受けた人たちである。
世論調査によると、国民の8割がロマ人の不法キャンプ撤去に賛成しているとされており、政府はこうした国民の声に耳を傾け、裁判所の命令を執行せざるをえなかったのだろう。しかし、住居を与えずにロマ人家族を強制退去させないとしたオランド大統領の公約を果たせていないのは明らかで、ロマ人を擁護する市民団体はこの点を挙げて政府を厳しく非難している。
こうしたロマ人排除の動きを受けて8月10日、欧州委員会は2年前と同様に、恣意的な強制排除や民族差別的処遇をしないようフランス政府に勧告した。ブルガリアやルーマニアの国籍を持つロマ人たちは欧州連合(EU)の市民である。したがって、本来ならEU域内を自由に往来する権利があり、不法占拠をしたからといって本国に送還することはできないはずだ。ところが、シェンゲン協定加盟国のうちフランスを含む数カ国は、ブルガリアとルーマニアの国籍を持つ人に関しては、2013年末までシェンゲン協定の自由往来の原則を保留しており、彼らはほかの欧州市民とは違ってフランスで自由に就労することができない。彼らを雇う場合は、雇用主が仏移民同化局(OFII)に年713ユーロの税金を支払い、職種も150種に制限され、県知事の許可を取得しなければならない。
欧州委員会などの批判を受けて、仏政府は22日、ロマ人の就業に関する制限を緩和する方針を固めた。雇用主への課税を廃止し、職種の数を増やすほか、この就労制限を近い将来に撤廃することも検討するとした。
建物や公共の場所の不法占拠は取り締まらざるをえない。しかし、その際に、事前に通知・話し合いを行って代わりの住居を用意するというオランド大統領の公約は守られるべきだろう。そのためには、収入を確保するための就業の機会を保証しなければならない。EUは加盟国の移民同化政策のために地域支援基金を設けており、フランスはそれを利用して受け入れ態勢を整えることができるほか、ブルガリア、ルーマニア両政府に対してロマ人の社会同化政策を採らせる圧力をEUとともにかけることもできるはずだ。フランスがシェンゲン協定から離脱するのでない限り、おそらく2014年には実現されるであろうブルガリアとルーマニアのシェンゲン協定への全面加入を視野に入れた対応をフランスは今から準備していかざるをえないのではないだろうか。(し)