「ナチュラルな強さと、無知の怖さを」
一日一芸、30日以内に若殿を笑わせないと切腹の刑に。しっかり者の愛娘を前に、父として、侍として、刻一刻と追い詰められる脱藩浪人のプライドとは?非情と人情が交錯する映画『さや侍』(5月9日フランス公開)は、ラストまで見る者の思惑を裏切り続ける快作/怪作だ。ロカルノ映画祭ディレクターのオリヴィエ・ペールが「ポップアートの偉大な芸術家」と賞賛する松本人志の最新作を、しっかりと「裸眼」で目撃しよう。シネマテーク・フランセーズの特集上映も実現し、ドーヴィル・アジア映画祭に出発直前の松本人志監督にパリで話を伺った。
フランスでの上映について感想は?
(シネマテークは)プロ野球でいうと入団2、3年目ぐらいの選手が名球会に入れたみたいな話。みんな「弱ったなあ」言って褒めてくれなあかん。どうも日本ではいち芸能ニュースとして(お笑いコンビの)オセロの方が大きくて、ちゃんと家賃払ってる僕としてはつらいです。
テレビと映画の仕事のバランスは?
毎日のようにテレビに出てるから、「松本人志監督」が「ダウンタウン松本」を抜くのは難しい。でもいいとこと悪いとこが半々かな。映画で煮詰まってしんどい時、テレビでアホなこと言うて助けられることもあるし。『さや侍』の時は、シリアスなものを撮ってる時に(テレビで)バラエティは、わりときつかったですけど。
映画を撮るということについての思いは?
評論家の人たちをうならせる映画を僕は撮れないと思うし、そういう種類の監督ではないので、むしろ黙らせたり、場合によっちゃ怒らせるような監督でありたい。突き進んでくしかないですね、僕のやり方で。圧倒的に映画見てないですもん、だからこそいいと思ってて。(格闘家の)ボブ・サップが出てきた時めちゃくちゃ強かったんです。でもサップがいろいろ学んだ。ボクシングの稽古とかしてどんどん弱くなった。(僕は)ナチュラルな強さ、無知の怖さみたいなものは持っておきたい。
次回作のご予定を教えてください。
第4作目の企画会議は日本に帰ってからすぐ始めるつもり。R80(80歳未満観賞禁止)くらいにめちゃくちゃしたろう思って。僕の全然違う世界のトップの人と何かできたら、どんなものができんのやろうとか思ってみたりもします。(聞き手/瑞)