●ワン・ビン監督インタビュー
まずはパリで、中国の鬼才ワン・ビン監督の2作品が鑑賞できる喜びをかみしめたい。辺地へ強制労働にかり出された男たちの極限生活を描く『Le Fossé(無言歌)』と、右派分子の嫌疑をかけられ迫害を受けた女性の独り語り『Fengming, Chronique d’une femme chinoise(鳳鳴—中国の記憶)』が、現在公開中だ。前者はフィクション、後者はドキュメンタリーという違いはあるが、ともに50年代後半から吹き荒れた反右派闘争を題材に取る、兄弟のような作品である。パリ滞在中のワン・ビン監督に話を伺った。
『Le Fossé』には原作がありますね。
原作となる短編集を読んだのはパリ行きの飛行機の中。カンヌ映画祭が企画する映画制作のワークショップに参加するため渡仏したのです。本書は文学的な質の高さはもちろん、中国人が受けた試練や感情が凝縮され描かれていました。特に上海から夫を捜しに来た女性の話や、強制労働から脱走した男の話が心に残り、ぜひ映画化したいと思ったのです。しかし制作がこんなに大変になるとは!無許可の撮影でひと時も安全や自由を感じられず、とても辛かったです。
中国の若い世代は右派弾圧や強制労働の歴史を知っていますか。
曖昧な情報ばかりなのです。教科書でも表面的なことしか触れられず、実際に何が起こったかは書かれません。チャン・イーモウの『活きる』など、同時代の中国を舞台にした映画はありますが、あくまでも、「これは過ぎたこと、現在は進化した時代」と言ってるだけ。本テーマに正面きって取り組んだ映画としては、私の作品が初めてでしょう。
ドキュメンタリーの主人公フォンミンさんは映画を見ましたか?
はい。彼女以外の生存者の方々も、映画に満足してくれましたよ。しかし中国の映画界は、まるで私の作品はこの世に存在しないかのように振る舞います。彼らは私の作品に対し、軽蔑めいた思いがあるのです。映画界もまた社会の縮図ですが、現在中国の政治は、文化や真理への追求を犠牲にしながら、消費文化ばかりを奨励しています。私が映画監督として存在していられるのも、フランス映画界からの援助のおかげなのです。
(聞き手:瑞)