「きょうは〈親切の日〉。親切といえば、みんながよく知っているBDのキャラクター、ババール。この優しい、ゾウの王様の話は、子供を寝かせつける時に語ってやるものだ」
と言いつつ、11月13日、ラジオのインタビューで、フランソワ・オランド社会党大統領候補をババールにたとえたのは、リュック・シャテル教育相。肝心な政策は打ち出さず、優柔不断で笑顔を振りまくだけだから、フランス人は眠り込んでしまう、という批判なのだろう。ジャン・ド・ブリュノフが描いたババールは、そもそも「BD」ではなく「絵本」の主人公だと思うが、それはともかくシャテル教育相は続ける。
「私はアステリックスの方が好きだ。ほら、アステリックスは勇気があって決断力があるし、民を守っている。そしてサルコジ大統領も常になにかプラスを勝ち取っている」
背が低いということで、アステリックスとサルコジ大統領は似ているかもしれないが、この発言に社会党幹部の怒りが爆発した。最近オランド候補の大統領選キャンペーンのかじをとることになったピエール・モスコヴィッシはたちどころに反撃。
「私は声を大にしたい。大統領選挙では相手を尊重すべきだ。罵倒し、くさいいやがらせをするすべしかないのだろか。私は相手を敬うことを呼びかけたい。(…)アステリックスのたとえを続けさせてもらうと、アステリックスは魔法の飲み物をなくしてしまっている」
大統領選を論じるのに、絵本やコミックスの主人公をたとえに出すようでは、あまりにレベルが低い。失業や購買力低下に苦しむフランスの国民が期待しているのは、もっと具体的な政策だと思うのだが。
●ババールは植民地主義?
フランス、そして世界中の子供たちに愛されている『ぞうのババール』。画家のジャン・ド・ブリュノフが、妻が二人の息子に話している話を聞いて絵本にし、1931年に出版。ババールシリーズの一冊目だ。ハンターに母を殺されたババールは、ジャングルから逃げて都会へ行き、お金持ちの老婦人と友だちになる。老婦人はババールに緑色の服を買い与え、学校に通わせたりする。だが、ババールは故郷を思い出すようになり、ゾウの国に戻る。ゾウの評議会は、フランスの教育を受けたババールが国王になるために適当であると認め、ババールはゾウの新しい国王になる。ブリュノフの暖かい絵と色使いが素晴らしく、子供たちに何度読んであげたことか。
ところが、この本は植民地主義を推進するものだという批判がある。西洋の服を着て国に戻り王様になるババールは西洋かぶれの独裁者で、老婦人は優しさというオブラートをかぶった植民地主義者だ、というのだ。でも1931年当時、反植民地主義は力がなく、同年にパリでは大規模な植民地博覧会が開催され、エルジェは『タンタンのコンゴ探検』というベルギーの植民地政策と一体の一冊を出している。どんな作品にも時代の反映がある。それを今の視点から検閲するのではなく、子供に疑問がおきそうなら、一つの歴史としてきちんと話してあげるのが親の役割。ババールを愛読して育ち植民地主義者になった、という人にこれまで出会ったことはない。(真)