
壮大な旅を思わせるタイトルの「Ulysse(ユリース)」は、ギリシャ神話オデュッセウスのフランス語。本作では主人公の息子の名前に。その名の通り、母と息子の18年間の成長の旅路を描いている。
社会学の研究者アリス(エロディー・ブシェーズ)は予期せず懐妊。ピアニストの夫リュック(スタニスラス・メラール)と、息子の誕生を喜んだ。ユリースは愛らしいが大人しく、一歳の誕生日が過ぎても歩かない。医者に相談すると、遺伝性疾患の可能性を告げられた。
こうしてハンディキャップを持って生まれた息子が、学校、そして社会の中で居場所を見つけるまでの苦難と喜びの長旅が幕開ける。問題を抱えた息子のために闘う親の奮闘ぶりは、ヴァレリー・ドンゼッリの映画『わたしたちの宣戦布告』と相似形。ここでもドラマティックなクラシックの旋律が、親子の旅を鼓舞するように響く。
監督は90年代に頭角を表したレティシア・マッソン。『A Vendre』などサンドリーヌ・キベルランとの3部作や、イザベル・アジャーニ主演の『愛のはじまり』などで注目された。本作で28年ぶりにカンヌ映画祭「ある視点」部門に返り咲き、クロージング作品として上映。感動の口コミが広まった。

誕生から18歳になるまでのユリースは数人の子どもが演技のバトンを繋ぐが、最後のユリースは監督の実の息子。実は監督本人のドラマでもあるのだ。
劇中でアリスが学校の無理解を前に失望したり、時に息子にあたる姿は痛々しく、生々しい。母親は息子に無理させているのだろうか。あるいは、多様性推進を謳うフランスも効率重視で、しわ寄せが弱者に来てるのだろうか。知られざる社会の仕組みも垣間見られ、話し合いを促す作品になっている。(瑞)
