
芸術の秋が深まる11月。日本映画の祭典キノタヨ現代日本映画祭の季節がまた巡ってきた。2006年にパリの地で「金の太陽(Kin noTaiyo=Kinotayo)」が輝き出し今年で19回目。ただし、2020年はコロナ禍でオンライン開催だったため、映画祭の年齢で言うなら、2025年でちょうど20歳の誕生日を迎えるという。
その記念すべき節目に先立ち、去る11月7日、映画祭会場であるパリ日本文化会館で記者会見が開かれた。まずは現代日本映画の旬を紹介するためのセレクション方法を、ヌーシャ・サン=マルタン会長から紹介。現在、キノタヨは年代も職業も異なる選考委員を12名抱えており、男女比は半々。全員ボランティアの参加となっている。今年は製作から18ヶ月以内の約200本の中から、コンペティション部門を選出した(現在邦画の公開本数は年間約600本だから、ざっくりその3分の1の量をキノタヨが選考対象にする計算に)。
コンペ部門

選ばれたのは7本。「闇ビジネス」に手を染めた若者の逃走劇である永田琴監督『愚か者の身分』、堂本剛が現代アートの画家を演じた荻上直子監督『まる』、生活保護の不正受給を巡る社会派ドラマの城定秀夫監督『悪い夏』、居場所のない人々の孤独を見つめたキャスパー・アストラップ・シュレーダー監督『拝啓アシタ』、孤独死に向き合うヒューマンドラマのジャヌス・ヴィクトリア監督『DIAMONDS IN THE SAND』、閉鎖される市民プールを繊細な眼差しで観察する太田信吾監督『沼影市民プール』、神秘的な岐阜の自然を舞台に据えた寓話風ドラマの金子雅和監督『光る川』だ。
キノタヨ初参加の監督が多く、新しい世代の健闘ぶりを感じると同時に、日本の今を外国人監督の感性で描く作品が2本あることも目を引いた。また、『拝啓アシタ』と『沼影市民プール』はドキュメンタリー。プログラム担当のトップ、ディミトリ・イアンニによると、今回は「孤独」「隔離」「他者との関係」などが、テーマとして目立つという。かなり社会の暗部を凝視する暗めなテーマの作品が揃った気もするが、映画という窓を通して、ありのままの日本社会を腰を据え見届けようとする覚悟はしっかり感じられる。

コンペ外には話題作が並んだ。興行収入が162億円を突破し、邦画実写歴代2位の記録を樹立、もはや社会現象となった映画『国宝』も一本釣り!フランスでの劇場公開(12月24日)に先立ち、李相日監督が立ち合いのもと12月6日に先行上映が催される。他にも、安田淳一監督『侍タイムスリッパー』、細田守監督『果てしなきスカーレット』、HIKARI監督『レンタル・ファミリー』などの人気作品が名を連ねる。
女性映画人を讃える「岸 恵子賞」創設

また、今年より新しい賞「Prix Keiko Kishi」が創設へ。岸恵子と言えば、国境を超え世界の巨匠に愛されたスターでありながら、俳優仲間とともにいち早く製作プロダクション「にんじんくらぶ」を設立するなど先駆的な活躍をした映画人。結婚後は長らくフランスで暮らしていたこともよく知られている。
キノタヨ映画祭は彼女の名を冠する賞の創設で、映画界における女性の才能を顕彰する構え。第一回の受賞は早川千絵監督に決定した。記者会見会場では、岸恵子の一人娘であるデルフィーヌ=麻衣子・シャンピが、日本で暮らす母に代わって登壇し、賞設立の喜びを述べた。さらに、新進の才能を表彰する賞「Prix du Talent émergent 」も登場。早川監督の『Plan 75』や、昨年「ソレイユ・ドール(金の太陽賞)」を受賞した入江悠監督『あんのこと』に出演した俳優の河合優実が受賞予定で、ゲストも華やかになりそうだ。(瑞)
第19回キノタヨ現代日本映画祭
2025年11月21日(金)~12月13日(土)
https://kinotayo.fr/
https://kinotayo.fr/agenda
https://kinotayo.fr/pdf/programme-2025.pdf
【上映日程 ・会場】
*会場は2ヵ所あります。お間違いのないよう、ご確認ください。
パリ日本文化会館
Adresse : 101 bis quai Jacques Chirac 75015 Paris
メトロ : M°Bir-Hakeim
ギメ東洋美術館
Adresse : 6 place d’Iéna 75016 Paris
メトロ : M°Iena
【上映スケジュール】★=ゲスト来場
11月21日(金)
オープニング・セレモニー ★=ゲスト来場
19:00 パリ日本文化会館
『はるうらら Beauty Mark』外山文治監督
役所広司インタビュー映像上映
11月23日(日)
14:30 国立ギメ東洋美術館
『果てしなきスカーレット Scarlet et l’Éternité』
細田守監督
19:00 国立ギメ東洋美術館
『侍タイムスリッパー Un Samouraï perdu dans le temps』
安田淳一監督
11月24日(月)
20:00 国立ギメ東洋美術館
『忍者武芸帳 Carnets Secrets des Ninjas』大島渚監督
11月26日(水)
20:00 国立ギメ東洋美術館
『ゴジラ-1.0 Godzilla Minus One』山崎貴監督
11月29日(土)
16:00 パリ日本文化会館
『果てしなきスカーレット Scarlet et l’Éternité』 細田守監督
20:00 パリ日本文化会館
『レンタルファミリー Rental Family – dans la vie des autres』
HIKARI 監督
12月1日(月)
20:00 国立ギメ東洋美術館
『光る川 River Returns』金子雅和監督
12月2日(火)
17:00 パリ日本文化会館
『DIAMONDS IN THE SAND』ジャヌス・ヴィクトリア監督
20:00 パリ日本文化会館
『光る川 River Returns』金子雅和監督★=ゲスト来場
12月3日(水)
16:30 パリ日本文化会館
『侍タイムスリッパー Un Samouraï perdu dans le temps』
安田淳一監督
20:00 パリ日本文化会館
『沼影市民プール Numakage Public Pool』
太田信吾監督★=ゲスト来場
12月4日(木)
17:00 パリ日本文化会館
『沼影市民プール Numakage Public Pool』
太田信吾監督★=ゲスト来場
20:00 パリ日本文化会館
『拝啓 アシタ Dear Tomorrow』
キャスパー・アストラップ・シュレーダー監督★=ゲスト来場
12月5日(金)
17:00 パリ日本文化会館
『拝啓 アシタ Dear Tomorrow』
キャスパー・アストラップ・シュレーダー監督★=ゲスト来場
20:00 パリ日本文化会館
『DIAMONDS IN THE SAND』
ジャヌス・ヴィクトリア監督
12月6日(土)
14:30 パリ日本文化会館
『国宝 Le Maître du Kabuki』李相日監督★=ゲスト来場
20:30 パリ日本文化会館
『まる Maru』荻上直子監督
12月9日(火)
17:00 パリ日本文化会館
『悪い夏 A Bad Summer 』城定秀夫監督
20:00 パリ日本文化会館
『まる Maru』荻上直子監督★=ゲスト来場
12月10日(水)
16:30 パリ日本文化会館
『光る川 River Returns』金子雅和監督
20:00 パリ日本文化会館
『愚か者の身分 BAKA’s Identity』永田琴監督★=ゲスト来場
12月11日(木)
16:00 パリ日本文化会館
『ナミビアの砂漠 Desert of Namibia』
山中瑶子監督★=ゲスト来場
20:00 パリ日本文化会館
『悪い夏 A Bad Summer』城定秀夫監督★=ゲスト来場
12月12日(金)
16:00 パリ日本文化会館
『Plan 75』早川千絵監督★=ゲスト来場
20:00 パリ日本文化会館
『愚か者の身分 BAKA’s Identity』永田琴監督★=ゲスト来場
12月13日(土)
14:00 パリ日本文化会館
『ザ・ヤクザ The Yakuza』シドニー・ポラック監督
19:00 パリ日本文化会館
『ダンデライオンズ・オデッセイ Planètes 』
瀬戸桃子監督(クロージング作品)
クロージング・セレモニー★=ゲスト来場
