
「 ピエレット・ブロック (1928-2017) 他の方法による絵画」展
Pierette Bloch (1928-2017) – La peinture par d’autres moyens
不揃いな黒い点々が画面に列をなしている。ピエレット・ブロック(1928-2017)の作品を初めて見た時、なんとノンシャランに描かれた絵かと思った。きっちり同じ位置に揃えて同じ大きさの点々を気が遠くなるような正確さで手書きする知人の日本人美術家の作品とは大違いだった。
こんな偶然のような作品がどうして評価されるのか。初めてブロックの作品を見た時そう思った。サンテティエンヌで開催中のフランス初の回顧展を見て、やっと彼女の創造性がわかった。展覧会は初期から晩年に至る軌跡を200点で見せ、どうやってここに辿り着いたかがわかるようになっている。

Photo:James Caritey. Adagp, Paris
1928年、スイス人時計職人の両親の元にパリに生まれた。11歳の時にジュネーヴでプラド美術館展を見て衝撃を受けたことが、美術の道に進むきっかけになった。第二次大戦中はスイスに逃れ、戦後パリに戻ってパリ大学法学部に入学したが、それは両親の期待に沿うための選択だった。結局、美術学校には行かず、2人の画家についた。そのうちの1人はアカデミズムの画家ではなく、この師から言われた「好きなことをしなさい」を一生続けたのが彼女の芸術家人生となった。

1948年に、パリにマイム留学をしていた米国人で、のちに俳優・映画監督となったアルヴィン・エプスタインの恋人となり、彼が師事していたマイム役者のエチエンヌ・ドゥクルの稽古場で動く人体をデッサンした。単純な線で動きを表しており、抽象美術を貫いたブロックの初期の作品として興味深い。同年、初めて抽象画をパステルで描いた。
1949年には版画で抽象画を制作。この年、前述の恩師が紹介してくれたのがピエール・スラージュだった。たちまち友達になり、最晩年まで友情が続いた。1951年にエプスタインにニューヨークを案内されてから米国文化に深い愛着を持つようになり、スラージュからは同じ抽象画家として多大な影響を受ける。交友関係は広くないが、初期の頃から人生の鍵を握る重要人物に出会ったのは幸運だった。
油彩の時期は短く、ほとんどの作品が紙媒体を使ったものだ。1960年代終わりの2回目の米国旅行の後、紙を手でちぎったり、重ねたりしたコラージュのシリーズを始めた。ベージュ、赤、黒の配色がよく、米国の抽象表現主義の画家、ロバート・マザーウェルの影響が見える。1971年からはインディアン・インクを紙の上に描いたデッサンとコラージュの組み合わせが始まる。それが発展して、1973年から30年にわたる、ブロックの代名詞のような点々の時代が始まった。ただただ、水平に点をインディアン・インクで乗せていく。点と点の間隔も点の大きさも少しずつ違う。リズムがあるようでなく、画面に空間ができていたり、点の位置が曲がっていたりする。

1973年は、糸を使った彫刻的作品を始めた年でもあった。ヘンプや紐を編んだり結ったり丸めたりした、不規則な網目のテキスタイル作品。それが1979年以降は、馬のたてがみを使って一本の長い紐にする立体作品にかわっていった。1980年から2004年までは、たてがみを丸めたような形をインクで描いて、読めない文字のような形を水平につづけていくようになる。
実験的な作品ばかりを作ってきた姿勢は最晩年になっても変わらなかった。和紙、オイルパステルなどを使ったり、ポリエステルの布に白いインクで点々を描いたりした。一見単純に見える作品でも、素材が変わっても、はっきり作者の個性がわかる。
ブロックは自宅に自作をかけておらず、スラージュなど他人の作品ばかりがあったという。控えめな性格で、自分から売り込むことはなかったが、早い時期からフランスの美術館が関心を示し、定期的に買い上げた。やりたいことを一生貫いて、またそれが生きている間に認められて、幸せな芸術家人生だったと思う。(羽)9月21日まで

Maille de chanvre tricoté, peint à l’encre de Chine et délavé, cousue sur feutre et tendue sur bois photo : Gregory Copitet

Musée d'art moderne et contemporain Saint-Etienne Métropole
Adresse : Rue Fernand Léger , Priest-en-Jarez , Franceアクセス : 火休、水―月の10h-18h 。パリ・リヨン駅(Paris Gare de Lyon)からSaint-Etienne ChâteaucreuxまではTGVで3時間前後。 パリから日帰りするなら、行き:Paris Gare de Lyon 7h52発 /帰り: 16h44発がある。駅からトラムT1か T3でMusée d’art moderne下車。
URL : https://mamc.saint-etienne.fr/fr
6.5€ / 5€(教員、65歳以上、大人数家族、障がい者と付き添い) 無料;26歳未満、学生、失業者
