
今年はシモーヌ・ヴェイユ保健相(当時)のイニシアティブで人工妊娠中絶が合法化されたいわゆる「ヴェイユ法」の施行からちょうど50年。この区切りの年に、1975年1月17日以前に中絶をして有罪になった女性たちの名誉を回復するための法案が3月20日に上院で満場一致で可決された。今後、国民議会で可決すれば最終的に成立する。
今年1月16日付リベラシオン紙はヴェイユ法施行50周年を記念して、不当に罰せられた女性たちの名誉回復を呼びかけるアピールを紙上で呼びかけた。それを受けて、オランド政権で女性権利担当相を務めたロランス・ロシニョール上院議員(社会党)が法案を国会に提出。「これは何十年もの恥辱と沈黙のあと、記憶を掘り起こすための取り組み」と説明した。

法案では、1975年以前の法律が女性の健康の保護、性と出産の自律、女性の権利を侵害するものであり、安全でない施術で多数の死者を出し、肉体的・精神的苦痛を与えた事実を国が認めるとされている。だが、被害者の賠償に関する条項は原案にはあったものの上院で削除され、代わりに、非合法な中絶に身を任さざるを得なかった女性の証言を収集したり、被った損害を認定する独立委員会の設置が規定されている。
1870年から1975年のあいだに、中絶をしたり、他の女性の中絶を助けた罪で1万1660人以上が有罪になったとされる。1810年の刑法では中絶に懲役刑が科され、さらに第1次大戦後の1920年からは中絶を擁護する発言をしただけで有罪となり、39年のデクレでは中絶再犯の場合は死刑にもなりえた。特に厳しかったヴィシー政権下の1943年には、27件の中絶を女性に施したマリー=ルイーズ・ジローさんがギロチンにかけられた。戦後は法律が緩和されたが、それでも75年までは中絶した女性は6ヵ月から2年、中絶を施した人は1~5年の禁固刑に処せられた。
2022年、人工妊娠中絶の権利を憲法に明記する憲法改正法案は否決されたが、昨年3月には「人工妊娠中絶を行なう自由は保護される」ことが憲法に明記された。現在、フランスでは毎年およそ23万人が妊娠中絶を行ない(78%は経口中絶薬による)、中絶が可能な期間も2022年に妊娠12週から14週に延びた。ところが、病院の産科閉鎖に伴って中絶のできる医療機関がここ15年で130ヵ所減少したうえ、医師の良心的中絶拒否権も守られているため、都市部以外では中絶へのアクセスが事実上、非常に制限されているという批判の声もある。
米国やポーランドなどで中絶の権利が脅かされている現実も踏まえ、フランスですべての女性が安全な中絶にアクセスできる権利が保障される闘いはまだ終わっていないようだ。(し)
