強姦の刑法上の定義について調査していた国民議会議員は1月21日、強姦の要件として「不同意」を加えるべきとの報告書およびそのための刑法改正法案を提出した。法改正が実現すれば強姦罪が立件しやすくなると注目されている。
この調査のきっかけは、2023年2月に女性への暴力撲滅のためのEU指令が協議された際、不同意の性交渉を強姦の定義に盛り込むことに対して議論が起こり、仏、独、ポーランド、ハンガリー、チェコが反対したこと。仏国内でも賛否両論があったため、国民議会の女性権利委員会に調査が委ねられていた。21日に同委員会の2人の女性議員(与党とエコロジー党)が提出した報告書によると、現行刑法では、強姦とは「暴力、強制、脅迫あるいは不意打ち」によりあらゆる性質の性的挿入を行なうことと定義されているが、そこに「不同意の(性的挿入)」という言葉を加えることにより、暴力、強制などが立証できないケースや、被害者による暗黙の了解を加害者が主張するケースでも、被害者の明確な同意がなければ強姦を立件できるようになる。
性的暴行の被害者の80%は告訴せず、告訴の73%は不起訴になっているのが現状で、それに風穴を開けることができると期待されている。また、報告書は仏も調印・批准している「女性に対する暴力と家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約」(イスタンブール条約)などの国際基準に仏国内法を合致させる必要があるとした。
「不同意」追加賛成派は、女性の肉体は男性に提供されるもので、無言の同意を推測できるといったいわば「強姦の文化」を変えることにつながると期待する。薬物で眠らされた女性が多数の男に強姦されたマザン事件の裁判で、被害者はある瞬間に同意していたと主張する被告がいたことからも、同意を引き出したり、強制したりすることも可能であるという問題は残る。
反対派は、現行法では加害者側の態度に「暴力、強制、脅迫あるいは不意打ち」があったか否かに焦点があったが、法改正されれば被害者の「不同意」を証明するために不同意の証拠が被害者に求められる。また、精神的支配によって意に沿わない同意を強制されることもできることが懸念されるという。
とはいえ、さまざまな議論の末、昨年春頃になってマクロン大統領が「不同意」の追加に賛意を示し、ミゴー前法相、デュポン=モレティ元法相らもそれに追随したこともあって、法改正が実現される可能性は高そうだ。(し)
