フランスの複数の農業団体は11月18、19日と26日、欧州連合(EU)と南米諸国との自由貿易協定に反対してデモや道路封鎖を行った。抗議運動は今後も続きそうだ。
この協定は、関税撤廃等を目的に発足したアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイによる関税同盟「南米南部共同市場(メルコスール)」とEUが関税撤廃を目指して2019年に基本合意したもの。正式には調印されていなかったが、2022年にルーラ氏がブラジル大統領に就任すると交渉が復活し、フォン・デア・ライエンEU委員長は今年中の締結に向けて意欲を見せている。しかし、フランスは南米から食肉、蜂蜜、コメ、トウモロコシ、砂糖などが大量に入ってくることに警戒感を強めている。協定案には関税率7.5%の牛肉9.9万トンのほか、無関税の別タイプの牛肉6万トン、鳥類肉18万トンの輸入割当が盛り込まれており、畜産農家は畜産の衛生基準や環境基準のゆるい南米産の肉は公正な競争原則に違反すると非難。ブラジルはEUで使用も輸入も禁止されている肥育ホルモン剤「エストラジオール」を使っており、それがEU輸入品に紛れ込む可能性も否定できない。一方、ワインや乳製品の生産者は協定を歓迎している。
全国農業経営者組合連合(FNSEA)、「若い農業者」(JA)は18日にパリ郊外、リヨン、ボルドーなど全国85ヵ所でデモを実施し、今後も継続する意向だ。FNSEAと立場の異なる小規模農業を推進する農民連合も今回は独自に抗議運動を展開する。さらに環境保護派は農産物貿易の活発化による南米の環境破壊に、食品安全関係のNGOも輸入産物の安全性に懸念を示す。
マクロン大統領は17日、現状のままの協定にフランスは署名しないと発言した。政界は左右とも反対で一致しており、バルニエ首相は13日、欧州の畜産農家への影響は甚大と反対の態度を表明し、EUと南米側の各種基準の統一のための交渉をEU委に求めた。仏以外には伊、ポーランド、オーストリア、オランダなどが協定に反対しているが、ドイツやスペインなどは賛成。とくにドイツは自国の自動車メーカーの輸出先として南米に期待を寄せている。締結されても欧州理事会で約15ヵ国以上の賛成(EU人口の65%以上にあたる)、そして欧州議会の承認が必要となる。今年1月にも収入減・貧困化や環境保護規則などに対する農業従事者の不満が爆発して道路封鎖などの抗議運動が起きており、政府はその再燃に危機感を募らせているようだ。(し)