仏製薬大手サノフィは10月21日、国民に親しまれる鎮痛解熱薬「ドリプラン」(パラセタモール)を製造販売する子会社オペラの株式50%を米投資ファンドCD&Rに売却する意向を改めて認めた。医薬安全確保の面から物議を醸している。
昨年、品不足に陥ったドリプラン等の製造会社の売却に、保健の安全保障が失われるとする左派から、仏企業の切り売りを批判する国民連合(RN)まで、政権運営するマクロン派、共和右派党(前共和党)も含めて全政党が政府に売却阻止を要求。研究開発投資額を法人税から控除される優遇策の恩恵を被りながら、国民が必要とする薬の子会社を売却するサノフィの態度に批判も上がっている。国防、エネルギー、公衆衛生など重要な産業分野を担う仏企業への外国投資の是非を検討するモントブール政令の適用を求める声もある。国内での製造停止と人員削減を危惧する労組も売却反対のストを開始。
これを受けて国はサノフィ、CD&Rと売却条件について協議し、20日に合意に至った。まずは、オペラ社のリジューとコンピエーニュの工場、本社と研究部門の維持、雇用の維持(国内1700人)。ドリプラン、ランゾール(消化薬)、アスペジック(アスピリン)など需要の高い薬については国内最低生産量を保証し、5年間で7000万€投資すること。上記2工場の生産を停止すれば4000万€、解雇1人につき10万€という罰則も合意に盛り込まれた。国内の仕入業者や下請けを継続しない場合、罰金は最高1億€になる。市販薬、ビタミン・ミネラル剤、サプリメントで世界3位、年間52億€売り上げるオペラの市場価格は160億€。サノフィは株式50%を売却し約48%をキープ。仏公共投資銀行Bpifranceが1~2%を取得して、米社のオペラ買収後の行動を監視するため取締役会で発言権を獲得する意向だが、その効果を疑問視する声もある。サノフィは昨年、市販薬部門を手放してバイオ医薬品やワクチン、免疫部門に注力する方針を発表していた。
コロナ禍最中の2020年、仏政府は医薬品や保健製品の供給が停滞したことを受け、製薬会社に製造の国内回帰を促した。マクロン大統領は中国でパラセタモールを生産していたセカンス社の国内製造を要請。その工場は2026年に操業予定で、別のトゥールーズの企業が来年のパラセタモール製造開始を目指している。医薬品の国内安定確保を大々的に掲げた大統領だが、製造の国内回帰には費用も時間もかかるのが実態のようだ。(し)