欧州連合(EU)の重要原材料法(Critical Raw Materials Act)が5月3日に発効した。エネルギー移行に必要な鉱物の域内自給率を高めるのが目的だが、フランスも戦略的な鉱物確保に向けた鉱山開発の政策を推進中だ。
EU委は昨年春、2050年までに温室効果ガス排出の実質ゼロ達成を目指すグリーンディール政策に不可欠なリチウム、コバルト、ニッケル、レアアースなどの域内自給率を上げ、中国などへの依存を軽減するために、2030年までにそうした鉱物の域内年間消費量の10%以上を域内で採掘、40%以上を精製・加工、25%以上をリサイクルする目標を設定した規則案を発表していた。欧州議会とEU理事会の承認を経てこのたび発効となった。欧州の鉱山はここ30年来閉鎖が続いており、外国への依存が増している。しかし、気候問題に加え、コロナ禍や国際情勢の緊迫のため、EUは戦略的資源の中国など少数の国への依存を減らして域内の自給率を上げるとともに、外国に汚染を移転する姿勢を改めるべきとの考えが強くなってきている。しかしながら、鉱山開発に対しては環境汚染、景観破壊、水資源の枯渇といった住民の不安があり、各国の鉱山再開発はあまり進んでいない。
フランスでもルメール経済相が4月12日に鉱山開発を容易にするための手続きを簡略化する法案を準備中と明らかにするなど、資源の国内調達を促進する姿勢が見られる。電気自動車(EV)の電池や風力発電機などに欠かせないリチウムや銅といった戦略的金属の開発のための手続きをスピードアップするのが目的だ。
リチウムは2035年には年間1万~1.5万トン、銅は3.5万トン必要になると見積もられている。EVのバッテリーに使われるリチウムの消費は2050年には現在の2~7倍になるという試算もある。地質鉱山研究所(BRGM)による全国の鉱脈調査も進んでおり、アリエ県やアルザス地方ではリチウム、ボジョレー地方では銅など15件の鉱脈調査が申請されている。アリエ県ではすでに仏イメリス社によるリチウム鉱山開発計画の公聴会が開かれている。しかし、環境保護団体や開発候補地の住民の反対は強い。本土5696ヵ所の旧鉱山のうち2109ヵ所に鉱山廃棄物が残り、なかには重金属により住民の健康被害や重大な環境破壊が今なお続いているところがあるという。
国内の開発計画がなかなか進展しないのを見越して、政府は仏企業による外国での鉱山開発に5億€の投資基金を昨年5月にスタートさせた。これまでは外国での環境汚染や健康被害は黙認されるケースが多かったが、今は資源調達に環境負荷を伴うことを考えざるを得ない。クリーンなエネルギー移行にも汚染が伴うことを意識して資源を開発していかねばならないだろう。(し)