PHILIPPE STARCK – Paris est pataphysique
パリ生まれ、パリ育ちのデザイナー、フィリップ・スタルクの50年のキャリアを通して見たパリを紹介する展覧会が、現在カルナヴァレ美術館で開催されている。
パリの観光名所のひとつ、グレヴァン蝋人形美術館所蔵のスタルク像が入口でお出迎え。スタルクはこの蝋人形館を「本物の美術館」と呼んでいる。暗闇に浮かび上がるこの蝋人形を前に「本物」のスタルクに見つめられている気分になり、思考が現実と空想の間をゆらつく。
会場には、スタルクが内装を手がけた、1980年代世界中の前衛アーティストやスターが集った伝説のクラブ「レ・バン・ドゥーシュ Les Bains Douches」、ジェラール・ガルーストにフレスコ画を依頼したエリゼ宮のミッテラン夫人の寝室、文字盤が正しい時間を表示してくれない大時計のあるカフェ・コスト、活版印刷所を改装したCaffè Sternが再現されている。
船のパドルをかたどったパリの歴史パネルは、スタルクが1992年にデザインしたもの。インタラクティブなパネルに変更されるまでパリのあちこちで見かけたが、スタルクのデザインとは知らない人も多いのではないだろうか。また、駅構内などに設置され親しみのあるPhotomaton。誰でも一度は、スタルクデザインのこの箱の中に入って滞在許可証やパスポート更新の証明写真を撮ったことがあるのでは。
展示の最後は2024年パリオリンピック金メダルのデザイン。スタルクの提案する金メダルは、メダルを獲得した選手が喜びを分かち合うだけでなく、「メダルそのもの」を分かち合う(!)ことができる。残念ながらこのメダルを来年のオリンピックで目にすることはないが、超大型レンチキュラーレンズで、1つのメダルが4つに分かれていくしくみを目にすることができる。
パリを流れる「水」と、パリに吹き渡る「風」に特別な思い入れのあるスタルクは、パリを南下しセーヌ川につながるサンマルタン運河を愛し、大きな骨格が作り出す美しいフォルムのエッフェル塔を「風の彫刻」と呼ぶ。スタルクのデザインは、パリの風景に溶け込み、すでに撤去されてしまったものですらパリジャンやパリを訪れた人々の記憶の中で生き続けている。
展覧会のタイトルにもあるように、スタルクのパリは「パタフィジック」。パタフィジックとは、作家、アルフレッド・ジャリーが1948年に提唱した造語で、「空想的解決法による科学」。なんのことやら?と首をかしげる言葉だが、展覧会を見ていくうちに、パリからパリへ、パリの風に吹かれスタルクと空想科学の運河を航海しながらパタフィジックなパリにどっぷりはまってしまう。そして、今までと同じ視点でパリを見れなくなってしまう。なんとも詩的で幻想的な展覧会だ。
8月27日まで。火〜日 10h-18h。13€ / 11€。
Musée Carnavalet - Histoire de Paris
Adresse : 23 Rue de Sévigné, 75003 Paris , Franceアクセス : Saint-Paul, Bréguet Sabin, Pont-Marie, Chemin Vert
URL : https://www.carnavalet.paris.fr/
開館時間 : 火〜日 10h-18h