城や貴族の館などでよく目にするタピスリーは、フランスが誇る伝統工芸品。クリュニー美術館所蔵の「貴婦人と一角獣」のほか、有名な作品が多数ある。タピスリーは世界の古代文明の地に誕生し、中世にヨーロッパに伝わったとされる。フランスのタピスリーの中心地、600年のタピスリーの歴史を持つオービュッソンにある無形文化財企業(EPV)、ロベール・フール製作所を訪ねた。
フランス中部のこぢんまりとした町オービュッソンには、装飾美術学校を改装して2018年に設立された国際タピスリーセンターがあり、近くのフェルタン町とともに今もタピスリー製作所3軒と小規模な工房10数軒を擁するタピスリーの町だ。
14世紀にここマルシュ地方の伯爵でもあったルイ1世(ブルボン公)がフランドル地方の貴族の娘との結婚をきっかけに、タピスリーの盛んだったフランドルや仏北部アラスの職人を連れてきてタピスリー産業を振興したといわれる。1662年のゴブラン製作所 (パリ)に続き、1665年にオービュッソンは王立タピスリー製作所となり、以来、タピスリー制作の伝統が今も息づく。2009年にはユネスコの無形文化遺産に登録された。
ロベール・フール製作所は1950年代創立で社員30人。タピスリー製作では規模が大きいほうだ。手織りのタピスリー(年間300~400点)を中心に、絨毯、機械織りタピスリーを制作する。
まずは、デザイナーの絵をもとに型紙職人(cartonnier)が下絵に番号で色分けし、色を決めているところを見せてもらった。その色指定をもとに、染色場で染色師が大きな玉杓子の中で赤、黄、青の顔料を混ぜて必要な色を作り、その色の溶液(100℃)にウール糸を10~15分浸す。指定通りの色になるように、何度か色を調整して浸しなおす。顔料の混ぜ具合はまさに職人の勘だけが頼りだ。
その糸を細い糸巻きに巻き取ったもの(100色以上使うこともザラ)を織師 (lissier)が使う。織師は白い綿の縦糸を張った水平の織機(枠)に、下に張ってある下絵に沿って様々な色の横糸を通して絵を再現していく。色が変わるところや陰などは自然に仕上がるように調整するので織師の感覚と経験がものをいう。織り上がると、枠から外してすきまを縫い合わせるなど微修正。すべて手作業なので、1m2当たり下絵から織り上がるまでに200~800時間かかるそうだ。
ちょうど訪問時には、文化省依頼の3.8m×5mの絨毯を制作していた。これは垂直に張った、下絵をうつした布にピストル状の器具で糸を突き刺していくやり方。同社で手がけるのはコンテンポラリーなデザインがほとんどで、伝統的絵柄も合わせて約400点の下絵コレクションがある。注文は民間企業や個人からのものが多いそうだが、無形文化遺産 「オービュッソンのタピスリー」認証が付くので、1つの下絵に対して製作は8点までに限定される。
この製作所では、昨年タピスリーセンターの依頼で宮崎駿の 『千と千尋の神隠し』(3m×7.5m)を1年かけて織りあげて今年1月にお披露目した(写真)。伝統的な製法を守りながらも、新たな表現方法を探っていくなかに、タピスリーが現在も生きている秘訣があると思った。(し)
Manufacture d'Aubusson Robert Four
Adresse : 7 rue Madeleine, 23200 AUBUSSON , FranceTEL : +33 (0)5 87 04 60 15
URL : https://www.aubusson-manufacture.com