アヴィニョンでは舞台版が開幕作品に
演出家ティアゴ・ロドリゲスが芸術監督に就任する第77回アヴィニョン演劇祭。今年の開幕作品は気鋭の女性演出家で、サン・ドニのジェラール・フィリップ劇場ディレクレターでもあるジュリー・ドゥリケの「WELFARE」に。これに合わせ、本作の元ネタであるフレデリック・ワイズマン監督の同名ドキュメンタリーが、4Kレストア版で劇場公開される。
「パリのアメリカ人」ことワイズマンは現在93歳。今も進化を止めぬ巨匠が、1973年に撮影した重要作品だ。
マンハッタンの福祉センター。不況の煽りで低所得者層が駆け込み訴えにやってくる。「手当が届かない」「住むところがない」。怒りや苛立ち、絶望の表情を浮かべる老若男女。体に傷があったり、健康に問題を抱える人も多い。たまに担当者が解決を図ろうとするも、杜撰な管理システムや問題のたらい回しで、すぐにカフカ的迷宮に入り込む。無職の男は待合室で呟く。「退院してから124日待っている。ゴドーの話を知ってるだろう。決してやってこないものを、私は待っているのだ」。
あちこちで繰り広げられる人生劇場。生々しいやり取りの数々。そして気がつくと、スクリーンの外では半世紀もの時間が流れていた。歴史の隅に追いやられたこれらの人々は、一体どこに消えたのか。世界では何かが改善された様子もなく、今日もどこかで駆け込み訴えが続く。
現在もあまりに今日的な本作の舞台化は素晴らしいアイデア!だが、実は売り込んだのはワイズマン本人だと聞いて驚いた。以前から本作の舞台化を希望しており、自らドゥリケに提案したのだとか。この機会に映画版と演劇版を見比べてみるのも一興だろう。(瑞)
映画公開は7/5。
アヴィニョン演劇祭での上演は7/5〜14。
パリ郊外サン・ドニのG・フィリップ劇場は9/27〜10/15。